2020年7月10日劇団摂氏零度第三回本公演レビュー
(全敬称略)
2020年7月10日
劇団摂氏零度第三回本公演
音響・主題歌制作 アルコ(摂氏零度座長)
作 動画制作 羽白深夜子(摂氏零度副座長)
演出 出演 劇団摂氏零度
総論
テーマ楽曲を劇団座長が
ワン・オフにしているので
摂氏零度の世界観を完全に立て込んだまま
一気に劇場の椅子に座らせてもらえました。
開幕までそれはもう、焦らしていただきました。
待つのが楽しい劇場は最高だと思います。
今回の上演は色々な意味で余白を恐れずに
自由に使いこなしていた。
一部:アミューズメントチャイルドに関して
出鼻から観客を釘付けにするしかけが
ベトナムのジャングルのように
張り巡らされていると思いました。
今回の音響はとても大変だったと思います。
超高速の二人のラリーにぶつけていかないと
場が立ちません。忍者屋敷どころの話ではありません。
演者への全幅の信頼と心中の覚悟がないと
ここまでタイトなタイミングで
音を当てたり切り替えたりはできません。
そういう意味でも、
劇団摂氏零度が持つ『純度と閉鎖性』を垣間見ることができた
素晴らしい本公演だったと思います。
なお、途中、機材トラブルがあったのことなんですが
「トラブル?だから何?」
と思わせるくらいの没入感がありました。
らんぞー:それいゆに関して
冒頭の強襲をしっかり掴みました。
第一声ものすごいプレッシャーだったのではないでしょうか。
耳を引きつけるロックなメインテーマから
一転した8bitのBGM、程よく観客の集中力を
一点に集めたところに一手目に全力の正拳突き。
よくぞ決めた!と喝采を送りたいです。
そしてその後も劇を引っ張り続けます。
血圧がぶち上がるような声を鳴らしても
崩れない抜群の突進力と安定性はさすがセンター・マンです。
歌舞伎や狂言を思わせるような力強さで舞台映えするのですが
決して荒くない丁寧な仕事をされています。
またこの方の声は、全体的には説得力があり
中音からやや下が強いタイプなのですが
イ音が裏返るときとってもファニーで場を和ませてくれる。
たくろー:すてらに関して
それいゆの面圧とテンションに負けないように
適度に歪ませた声はしっかりと空いてる帯を利用して
上手にコントロールされています。
大変に調和のとれたタンデムでした。
この人の演技は劇ごとに本当にガラッと変わるなと感じました。
多芸ゆえにどれも薄いというのではなくて
多芸なのにどれも濃くて一体この人の地は何なんだ?と悩むくらい。
強く張り出しても濁らず崩れず
音の形がとても強くて逞しいです。
それでいてちゃんと綺麗な少年であるのがお見事でした。
劇の半ばにかけて声に少しずつ細さと繊細さを
グラデーションのように移ろわせていく
心情描写のさじ加減が絶妙。
この人の声はいつもさらっと劇に入ってきて全く違和感がないが
本人はめちゃくちゃ役に入っていくタイプなんだろうと推察します。
二部:father’s marchに関して
穏やかで優しい空気の中で
そういった、ソフトなストーリーの上で
どれだけリアリティやインパクトを感じさせてくれるか
という観点で客席に座らせていただきました。
本公演はキャスティングと役者同士の組み合わせで
穏やかで優しい話の中に新鮮な刺激と新しい対流を
用意していました。
起承転結が激しくドラスティックな表現がある劇に比べ
こう言うハートフルなものは実はリアクションを取るのが
難しいのではないかと言う懸念は完全な杞憂に終わりました。
結花憲司:アルコに関して
『色々あってちょっと擦り切れた男』の
感じがしっかり出ています。
ゥ と ァ の間くらいの独特の発声が
私が、このキャラクターの魅力と感じる
『なんとも言えない曖昧さ』を表現していると思います。
この方は三枚目を演じると非常に良いですね。
かっこよさと哀愁とユーモアを
どれも損なわずに演じられる俳優だと思います。
場面ごとにそのバランスを変えるのだが加減が絶妙。
また、この方、当然ながら演技的にはめちゃくちゃ器用なのだが
あえて不器用に、相手に負けてあげるような演技が抜群に上手いです。
栄百合:羽白深夜子に関して
マダム然とした余裕と残響のある声で臨まれました。
一転、怒気を孕むとこの方らしい
凛として澄んで強いものが出ます。
また、嬉々とした声はスラーで繋がったよう。
かなり喜怒哀楽がはっきりと声に乗る方だと思いました。
技能的な話でいうと、この方は相対する相手によって
瞬時に距離感を変える、瞬間温度計のような能力が
極めて高いと思います。
どの演者さんもそれをやるのですけれど
この人は瞬時にテレポートするようです。
魚上紀:ユウトに関して
冒頭は、観客を引きつけるように
敢えて音作りを尖らせてきたように感じました。
形も音の幅もいつもより大きく
ポップな感じを出していたと思います。
カーテンコールを聞いてその真意がなんとなく汲み取れた気がしました。
これは、勢い任せとか荒いというわけではないです。
ブレスも音の粒もコレクトでありながら
しっかりとリズムを作っています。
そして、劇が進むにつれて、この方の
相手の呼吸やスペースを活かすセンスが
どんどん発揮されていきます。
この方ね、BGMに乗るんですよ。
『バックグラウンドで流れてる音楽』じゃなくて
敢えて、その上に乗るところがあります。
そして全員で作り出した雰囲気の中を
スーッと泳いで行くのも大変に上手い。
どの場面でも抵抗なく入っていく。
今回、センターをしっかり引き受けていたと思います。
草木潤一郎:くまたに関して
声の作りでは実直そうな気配をしっかりと出されています。
そして、実際に鷹乃と魚上との掛け合いでは、
上に上に行きがちな音の響きを程よいところに引き戻しています。
音程的な意味でもテンポ的な意味でも
今回の彼の演技は非常にバランサーとして機能していたと思います。
全体的に大きな衝突なく心地よく流れていく劇中で
時折、彼は『相手に不躾にねじ込むような尋ね方』をするんですが
それがなんとも言えずくすぐったくて心地よいです。
鷹乃鏡花:赤池つばさに関して
赤池つばさはやはり引き出しが多いと確信した。
彼女はこんな振る舞いもできるのですね!
これまでに聞いたことのない、
水の上をさっと走り抜けるような高い女の子の声。
喉の上の方で弾むような呼吸。
赤池の名前がついていないと彼女だと分からなかったでしょう。
彼女の「うあぁはぁはぁぁあ」って
演技、耳を疑いました。すげえなこの人は。
最高の賛辞です。