2020_0705 tRiskeEle レビュー
(全敬称略)
2020_0705 tRiskeEle
揚巻 作
総評
愛って綺麗なものだと思いますか?
私は、愛という言葉や概念に対して
あまり綺麗なイメージは持っていません。
無償の愛、とか言いますけど
この手の接頭語つけないと愛って概念そのものは
良くも悪くも底無しに深い情動の沼なんですよね。
で、この劇には愛しかないです。
これは、三つの愛を全開で回す劇だと思う。
愛をテーマにしたヘヴィな作品に
よく訓練された演者がそれぞれの愛を以って臨んだなら
そこにできるのは、底なしの沼です。
ゲイル:アルコ(摂氏零度座長)に関して
やはりこの人の声は
絶妙な揺らぎがあってとても優しいと思います。。
紳士ぶった表現の時は
一瞬いかにもそれっぽく聞こえてしまいます。
それが即座に剥がれるメッキ感を保っているのがまた良いです。
その一方で棘のある台詞を回した時の方が
よほど演技に甘みが出るという
なんとも言えないピカレスクの魅力があります。
瞬間発火のありえない速度の怒気も良い。
ぜーんぶ嘘だよォ!
なぜこれだけ声の形が整っているのか?
と気になったのですが
この人、ブレスの処理が
ダントツで上手いんだとようやくわかりました。
常に乱れず一定なんですね。
ロングトーンの要領を厳守しながら演技をしているように思います。
ブレスが抜けないんですよ。
これは多分この方の、持ち前のキャリアが
背景にあるので気づいてもなかなか
真似できないだろうなと思いました。
後半は、しっかり赤池トリスの語尾のニュアンスを
トレースしてるあたり演技だけでなく音としても
セリフをコピーしてるのだと思いました。
トリス:赤池つばさ(摂氏零度)に関して
これまで聞いた中で一番大人びた
淑女じみた赤池でした。
音程感をさほど強くつけず
一気に落とすような手癖を使わず
声を下に沈めないでストレートに飛ばすと
かなり説得力のある声になると思いました。
彼女の蔑むような声には
とても湿気と冷気が混じり合っていますね。
が、やはり苦しそうな切ないような
声を出させた時は赤池節の魅力が出てきてしまいます。
しまう、という表現を選んだのは
企図せず自然に滲み出るものが
個性だと思うからです。残念の逆の意味です。
この人の演技は苦しい表現をトリガーにして
独特の味と苦味が出てくるように思います。
蛇を咥えたまま入水した女性を連想させる
湿り気と冷気と念がありますね。
若いジゴロに入れ込んだ
仕事熱心なアラフォー女性の演技とか
鬼のようにはまるのではないでしょうか。
一方で、後半ピークまで声を引き出したときの
高音は絹のように優しい。
この人の声はとても色々な顔を持っています。
エリー:机の上の地球儀に関して
ゲイルの低音とトリスの中音をうまく抜けて
かつ、シリアスさを喪失しない程度に、
高く響きすぎないことを意識して
初手の高音に座した感があります。
低く彷徨くような二人の演技に対して
やや上空を浮遊するように頼りなげに
前半では鈴を連想させる声で言葉を紡いていました。
前半は。
恋に恋して夢見る少女モードを
発動させた刹那に
ゲイルに対して瞬間的心理障壁をぶち上げるのですが
この瞬間の拒絶感たるやなかなかに残酷です。圧殺するの。
彼女の演じるエリーはゲイルを叩き落とすことで
トリスへの慕情を加速させていきます。
ああ、女の子って残酷だよなぁという一面を
間接的ながら豪速球で表現しています。
突き刺すような「気持ち悪い!」の殺傷力と
邪魔邪魔ラッシュのスクラッチ感は
確実に僕らのメンタルを削っていきます。
冒頭、鈴のように弾んでいた声は
YOSHIKIが連打するクラッシュシンバルのような鋭さで
ゲイルのビブラートをぶっ潰していきます。
音域的にも前半二人に譲っていたあたりを
最後で全部ぶっこぬいていくんですね。
これを意識しているかどうかはわかりませんが
もしそうだとしたら相当などんでん返しですね。
音響:アルコ(摂氏零度座長)に関して
今回音響をアルコさんが担当されてましたが
純粋な音響というよりも音やBGMを頼りに
表現の方針を決める監督・ディレクションに近い
アプローチだと思いました。
音のレイヤーをしっかり意識して、工夫が細かかったです。