2020_0711 パラノーマンズ・ブギーカラーズ・ウォーEP1 港湾の群青
(全敬称略)
2020_0711
パラノーマンズ・ブギー カラーズ・ウォー
EP1港湾の群青
ススキドミノ作
総評
この外伝エピソードには本編とはまた異なる
往年のラブストーリーのような
コク深い甘さがあったように感じました。
それは、登場人物たちがお互いに撫で合うような
心地よい優しさに包まれているためでしょうか。
そんなメロウな雰囲気が出た一番の理由は
全員が非常に高いレベルで演技されてたから
だと思います。
個性が突出していてもちゃんと
舞台上の物理法則で繋がっているこの感じは
全体の水準が高くないとなかなか起きないと思います。
加西:arashioに関して
間の置き方、取り方がとても上手です。
声を飾ろうとせずに
ストレートな可愛らしさを提示していていました。
声にならない所作挙動のセリフ遣いがとても細やかでした。
私、少女の声ってのが女性の演技で一番難しいと思うんですが
この人はそのど真ん中にきっちりと投げ込んでると思います。
少し先端の鋭い感じの音になってますが
全体的に形が一定なので耳なじみはとても良いです。
後半のじわじわと潰されていく演技は鬼気迫るものがありました。
平野:銀坊に関して
男性としては比較的高めの声で高音域が
安定して出ている人って実はとても稀有だと思うんです。
甲高いのではなく、地声が特別高いというわけでもなく
高く出しても耳障りでなく、そして波形は安定しています。
テクニカルな面でもレベルが高く
発音から終わりまで一定しています。
セリフの途中で声が崩れて
最後もつれ込むようなことは一切ありません。
要約すると、精度そのものがとても高いです。
一度も噛まなかったし、
ちゃんと強弱高低抑揚はつけつつも
キャラクターベースは破綻させないバランス感覚。
そして、あれほど存在感のある酒井と
がっぷり組んでも気圧されてないのはさすがです。
キャラクターが多数出演する大人数劇において
理想的な演技だったと思います。
キース:遠ちゃんに関して
少しだけ鼻にかかった声が
往年の洋画に実に映えそうだと感じました。
総評に書いた、この上演の空気にとてもマッチしてます。
彼の節回しのおかげでやや大げさなジェスチャーが
実に板についていて、聞き手のイメージに大きく訴えかけてきます。
この演技が役の素性にもフィットしていて
劇中の雰囲気を一層強く豊かにしています。
マリッサ:えみごんに関して
今回の魅力を一言で言えば、背伸びでない大人らしさです。
美麗な淑女を演じようとすると
どうしても不自然に装った感が出るものですが
自然に香り立つようにレディを表現されています。
この現象が発生する理由は
サ行のアタリがとても柔らかいためだと感じます。
劇全体を通してもセリフの扱いがとても丁寧です。
この丁寧な声の処理が一人芝居のシーンで非常に活きてます。
役が交互に入れ替わっていく中で、ほつれがでないんですね。
酒井:ヒスイに関して
今回は不必要にディストーションをかけてない、
荒ぶってないヒスイさんの中音域を楽しめます。
このかたは、ごく普通の、何気ない発音が特に綺麗だと思います。
本当に小さな、軽いアドリブをいくつか入れられてました。
これは、劇中のスピード感を殺さないための
配慮だったのではないかと思いました。
荒人:ガロに関して
今回の前半の演技は、
本シリーズの荒人と比較して随分丸く聞こえました。
もちろん、荒ぶらせたときの調子は健在で
キナ臭い無頼感もきっちり出てるのですけど
特に前半には寅さん的な味わいと余裕がありました。
外伝という位置付けの解釈に寄せた、演技の違いかなと思いました。
後半、一瞬見せた加虐性の中にさえも
ほのかな温もりがあるように感じました。オトナ荒い感じです。
N・うずら・店員・パトロール:オルット3に関して
今回のナレーションはいつもよりも
声のトーンが一段階低めに聞こえました。
もしかして少し喉を酷使されてたのかな?と感じましたが
語りのテンポそのものがやや抑えめだったので
その影響かもしれません。
これはこれで美味しいオルット節でした。
もしかすると、こう感じたのは
うずらの時とのギャップによるものかも。
音響 ガロ・ゆう兄
今回のBGMのチョイスが映画のように小洒落てます。
ありそうでない選球だったと思います。
動画:アダツ
毎回少しずつ内容を上演とクロスさせていて
本当に大変だなと思います。
こういうシリーズ物の勢いと鮮度を失わないためには
テコ入れが必須になんですが、その役割の先陣を突っ切っていて
毎度頭が下がる思いです。EP2への予告導線はお見事の一言でした。