2020_0715ハイドラレビュー

2020_0715 ハイドラ
ススキドミノ作

(全敬称略)

総評

初めて観劇する演目でした。
冒頭から暴れられるアンセムを鳴らすような
攻撃的な台本だと思いました。

もし最初の加速でしくじったら、と考えると
ゾッとするような構造だったのですが
全役者が出鼻からお互いに踏みっぱなしだったので
最初からトップスピードに乗れて一瞬で引き込まれました。

最高速からゆっくりと減速して
また立ち上がるという流れは役者さんたちにとっては
テンションキープがとても大変だったと思います。
(観客としては二度楽しめて面白かったです)

ラストの穏やかな集束はここまで
派手に散らかした感情を優しく撫でてくれて心地よいですね。

SFというジャンル故に今回の上演では
音響・効果音が想像力を強く手助けしてくれました。
プレイングマネージャーいつもご苦労様です。

アリシア:KiRiに関して

短いセリフの中で緩急をつけて
それぞれに加速するキャラクターを
まるでミニ四駆の向きを変えるように絶妙に管理していました。

アリシアというキャラクターだけ
狂気への瞬間加速という非常に有利なカードを
劇中で配られていないんですね。

では、その中でどう役を立てていくのか。

そのアプローチの選択はとても興味深かったんですが
彼女は
奇を衒わずに文脈の中でしっかりと存在感を放ってました。

特に、天里と1:1で回す場面では
粘り強いテンポキープを見せていました。

(今回の上演の)天里は
若干走り気味の味付けを好む傾向にあるのですが
場面が前に前に行こうとすると彼女が
おもむろに「まだだ、まだ美味しい」と
手綱を取るように引っ張り戻すんですね。

甘いセリフの綿あめ感もお見事でした。
耳に入った直後に溶けていくようでした。

終盤まで静かに物語を支え続けた彼女に
演技的な意味で、ラストのウイニングランが
用意されていたのは実に良いと思いました。

天里:ススキドミノに関して

チリチリと焼け付くようなマッド。

この方の過去の別作品の上演では
苦味と甘さが際立って感じましたが
今回はその豊かな声と力強さを
狂気方向に全振りした演技が聞けます。

平時は持ち前のスウィートさを残しているんですけど
狂気へ踏み込んだ際のガラスを踏み抜くような
声の毛羽立ちはハードコアそのものです。

嘔吐じみた絶叫は恰好良さとは違う何かで痺れさせてくれます。

劇中、淡々と表情が脱色されたような演技をされるんですが
個人的にはそこがとても印象に残りました。

ウー:机の上の地球儀に関して

裏返らないギリギリレッドゾーンでヒステリックに叫ぶマッド。

この方がデザインしたウーは、ちょうどいいところを取っています。

これ以上音が高くなればアタックの強さと響きが弱くなるし
かといって整えすぎれば他の役者の強さに食われてしまいます。

踏み込んだピーク時にあの音の位置を取るために
平時はかなり低めに位置していましたが
とても良い判断だったと思います。

今回、ブレスの量がいつもよりも多く、
この方の特徴の一つである高音域の鋭さを上手くカバーしてました。

その処理が、アニメチックなデフォルメ感を薄れさせて
よりキャラクターの等身を高いものにしています。

パーソン:アルコ@摂氏零度座長に関して

美しい声を限界まで歪ませたマッド。
台本の場面ごとのコントラストを活かすために
平時はいつも以上に声にツヤを出しているように感じます。

また、この方、今回はパーソンというキャラクターを
多分三段階か四段階くらいに設計して
他の方以上に細かい温度差をつけているように思います。

たまたまですが、ここ最近この方の上演をよく聞いているので
比較するデータを多く保有しているのですが
今回純粋に当人のコンディションがとても良かったように感じます。

歪ませながら駆け抜ける、息を出し切るような場面でも
台詞回しの精度がとても高かったです。

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