【Effectorz】序章・瓦礫の楽土(3/3)
極東ゾーン北東地区、日本
彼らの存在をまず知らせたのは、その音だった。
フライヤーは<適量>とモーターによって動力を確保しており、車体の下の3枚のプロペラを高速回転させてホバーするので、特有の駆動音を遠くからでも聴き分ける事が出来る乗り物である。
ましてや、虫の羽音すらしない、私と緋崎の歩く音が響くようなゾーンの旧市街だ。
緋崎はホバー音のする方向をじっと見つめ、立ち止まる。それは私たちが通って来た<火の綿毛>の有る舗装道路の方向だった。
「研究所のフィールドワーク?……いや、ローテーションからすると早くても明日のはずだが……」
「隠れた方がいいんですか?」
「いや、ルートから外れると俺たちが命取りになる、俺の後ろから離れないように進むんだ。」
遠くから黒っぽいフライヤーのシルエットが見える。確かメディア動画で見た研究所のフライヤーは白や銀のカラーリングのはずだ、私は記憶の糸を手繰り寄せた。
そして私のその記憶が正しい事が緋崎の言葉で確認出来た。
「軍が境界部での待ち伏せじゃなく、ゾーンの中でのフィールドワーク?珍しいな……」
緋崎は急ぐ事無く、むしろゆっくりと歩道を移動しながら、今進もうとしている道路の細い中央分離帯の草地を確認している。
位置状況を整理すると、私たちは<宝飾店>を出てから比較的大きな道路を二つ横切り、建物の間の細い路地を抜けて丁度、緋崎が安全を確認していた側溝まで戻っていた。
ここから30m程距離はあるが、遮蔽物無く彼がナットで見つけた<火の綿毛>の舗装道路が良く見え、道路以外に有るのは芝と植え込みのある道路の中央分離帯、あと歩道と車道を分ける柵、それくらいである。
奥の道路からは二台の迷彩塗装フライヤーが、迷彩の防護服を服を着て銃を持った人員を乗せてこちらへ向かって来ていた。
フライヤーの正面には二台ともマシンガンの様な車載用の火器が搭載されている。
「【ヴァーミリオン】!彼ら武装してます!!」
「そのようだな……ゾーンの中で銃火器……何処の連中だ……」
「投降して逮捕されるんですか?」
「もう少し歩いて止まるぞ、沙那」
言った通り、彼は歩道の途中で立ち止まった。私は彼の後ろに付いた。
フライヤーから警告の声が、拡声器を通して放たれる。
「動くなよストーカー!大人しく止まっていろ!」
その言葉で彼らも既に私たちの存在を確認しているのが判った。
二機のフライヤーはこちらに向かいながら徐々に減速してそして……
<火の綿毛>の真上に停車した。
フライヤーの高度は50㎝から100㎝程だろうか?その高さでは<火の綿毛>は発動しないらしい。二台のフライヤーはその色違いの舗装道路にピッタリ吸い込まれるように停車した。
先行する一台が私たちに向かって車両の横部分を見せて、防護服の兵隊が銃を構える。マシンガンに1人、そして中腰でライフルを構えてるのが3人、さっき私たちに呼びかけた指揮官らしき人物は立ち上がって、後方のもう一台に待機を命じている。
「武装はしていないなストーカー!情報は上がっている、【ヴァーミリオン】と言ったか?両手を上げてゆっくりこちらに投降するんだ!」
「残念だが隊長、こっちからそちらまでは、見た目と違って一本道じゃない。その中央分離帯は越えられないんだ。」
「何を言っている!こちらはストーカーに対しては常に発砲許可が出ているんだぞ!」
「それはゾーンの外の境界部での話だ。ゾーンの中じゃそんな法律は無意味だ。」
そして小声で緋崎が私にだけ聴こえるようにささやく。
(まず上空に威嚇射撃一回)
隊長は上空に向かって何発か銃を連射した。後で聞いた話によると、ああいったライフル銃は一回の引き金で3発同時に発射されるらしい。
私は反射的に身を硬くし、緋崎の背後に身を寄せた。
「ストーカー!こちらは温情をかけてやっているんだ!あんたは実刑かもしれないが、後ろのお嬢さんは初犯なら執行猶予で済むだろう。」
「俺も心からの老婆心で言っているんだ。隊長、そんなものは振り回さずに今すぐ自動帰還のボタンを押すんだ。」
私はこの会話を聴きながら、フライヤーの真下の<火の綿毛>が今にも燃え上がるんじゃないかと気が気で無かった。
無論、自分の身は何よりも大切なのだけど、何故か軍人たちが既に見えない何かに、あるいは悲劇や死の手のひらの上に乗っていて、握りつぶされるのを待ってるんじゃないか?と、そんな感覚の方が強くなっていた。
それは、ゾーンに入ってからずっと私を見つめている視線の感覚。それが私を突き通して、目の前にいる軍人たちに注がれているような、言葉に表せないそんな感覚に陥ってるからだ。
「いいか隊長、あんたらはここまで来られたのは運が良かったのかもしれない。でも俺たちはあんたらが死神に憑かれてしまっているのを知っている。帰って、あんたら全員、二度とゾーンに関わるんじゃない。」
「口を慎めストーカー!」
「帰るんだ隊長、ここはあんたらの知っている世界とは、違う。」
「口を慎めと言っている!!」
隊長が私たちの方に銃を構えた。つかさず緋崎が私に呟く。
(今度は威嚇で足元に連射、だが……)
その場面はスローモーションの様に見えた。
隊長が私たちの足元に銃口を向け引き金を引いた。発砲の閃光、そしてまた銃声。
しかし、銃弾は道路のアスファルトには到達しなかった。
先頭車両、中腰で銃を構えてた兵隊の一人が大きくのけぞり、反動でがっくりと前にうなだれた。
その動きでフライヤーの姿勢制御が作動し、他の乗員たちがバランスを崩す。しかしその不安定な中でも、横に居た隊員が倒れた隊員を訓練通りに確認した。
「伍長!長居伍長!」
「いったいどうしたというのだ……」
「伍長がやられました!撃たれてます!」
緋崎は微動だにせずその様子を見ている。私は身体が強張って呼吸が苦しくなる。
しかしそのおかげでこの場面から目を離せず、まるで脳だけが動いてるような状態に陥っていた。
「お前たち!武装しているのか!?」
「違う!そこに有るのは<蚊の禿>だ!あんたらと俺らの間に……」
「射撃許可!鎮圧しろ!」
そこから目の前で起こった事は、スクリーンに映る映画の一場面を眺めている、そう言った感じだった。。
弾丸は一発たりともこちら側に届かなかった。放たれた弾丸は四方八方に跳弾し、建物やアスファルト、電信柱に火花が所々で光っていた。しかし丁度軍隊と私たちの中間地点にあった中央分離帯の辺りを境目にして弾道は向きを変え、跳弾も火花も全て彼らの側で起こっていた。
軍用のフライヤーの側面に銃弾が何発も当たり振動する。そして銃弾がまた先頭車両の別の隊員を捉えて仰け反らせた。
車体への銃撃と倒れた隊員で大きくバランスが崩れたのだろう、プロペラによる空中での姿勢制御が取れず、フライヤーが大きく傾く。
その状況で安全確保のために高度を下げ地上に降りようと一人の隊員がフライヤーを操作した。
しかし、降下したそこにあったのは<火の綿毛>だった。
先程、金属製のナットが燃え上がったように、金属とFRPで出来ているフライヤーもまるで手品の様に炎を高く上げた。もちろん、隊長や撃たれた隊員を含む5人の軍人も纏めて。
彼らの防護服はこの炎にどれくらい耐えられるだろう?その疑問は一瞬で解けた。
火柱はおおよそアパートの二階の屋根の高さ6,7m。まだ意識のあった3人の軍人たちも断末魔の声を上げて次々倒れ込んだ。
燃え盛る炎の中、銃撃は全て止んだ。
「後続車両!仲間は諦めて早く帰れ!お前たちにゾーンは無理だ!」
炎の熱と光の中、緋崎が生き残った軍人に警告する。
後続のフライヤーは、炎から少しでも離れようと高度を上げた。
「待て止めろ!<火の綿毛>の上空に必ず有るのは……」
私は目だけを動かし、上昇するもう一台のフライヤーを眺めていた。
一定の高さまで上がった時、防護服の軍人が一人、不自然に空中へと浮き上がった。
それは例えるなら、ぬいぐるみを玩具箱から持ち上げるのに似ている。その後に起こった出来事も。
持ち上げられた防護服の隊員は、ねじれた。
それはぬいぐるみの手足を子供がねじる様に、あるいは手足や首が雑巾だとして、その雑巾を絞る様に。
ただ、ぬいぐるみや雑巾と違うのは骨や腱が捩じ切られる初めて聞く音―――
後続車両に乗っていた軍人は一人、また一人と、見えない手で持ち上げられ、ねじり、絞られていった。誰も抵抗する術を持たず。先に犠牲になった仲間たちを傍観しながら―――
「<挽き肉機>だ。<火の綿毛>の8~10m上空は必ずこうなっている。こういうものだ。」
緋崎だけが無表情にこの惨劇を見つめていた。無表情?いや私の見間違いか、とても悲しそうな表情を一瞬だけ見せた気がしたのだが。
先頭車両を焼き尽くした炎は収まった。中には5体の防護服が横たわっている。
上昇して隊員が犠牲になった後続車両は、また地上1m弱の所でホバリング停車していた。先頭車両の真横。
緋崎は私の方を振り向いた。そして私の頬を数発、手加減して叩く。
「すまん沙那。手荒だがこれが一番なんだ。」
私も叩かれてやっと我に戻った。身体も辛うじて自由を取り戻す。
「……いえ、大丈夫です私こそすみません。」
「そうか、じゃあ行くぞ。」
「帰るんですか?」
「いや、迂回して向こうに行く。一人くらいなら生きてるかもしれないからな。」
後続車両の車体の半分は<火の綿毛>のエリアに掛かっていなかった為、タラップを下ろして普通に乗り込む事が出来た。
私にとって運が良かったのは看護師と言う仕事柄、血を見慣れて居た事と、彼らの出血によってバイザーで中の様子が殆ど確認できなかった事だろう。燃えつきた先頭車両と5つの焼け焦げた防護服には、緋崎のアドバイスもあり出来るだけ視界に入れないよう気を付けていた。
緋崎は平然と、明後日の方向に曲がった防護服の手足を持ち上げ確認する。
「こんな酷い状況……大丈夫なんですか?」
「見た通り、大丈夫な奴は一人もいないだろう。」
「違うんです。【ヴァーミリオン】貴方の心身の負担が……」
「ああ、そっちの方か。昔、戦場でもっと酷いものを見た事がある。当然、ゾーンの中ではこれが序の口で、戦場よりも酷いものが幾らでも見られるからだ。」
「……」
私は押し黙った。
緋崎はフライヤーの上の5人を全て確認し終えると、こちらを向いて言った。
「首や頭部をやられてないのが二人いる。なんとかなるかもしれない。俺の<ブレスレット>と<ムズムズ>を使う。」
彼は自分の腕にはめていた<ブレスレット>を外し、見込みのある隊員の腕にはめる。
「<ブレスレット>の効果は知っているとは思うが、人体の生命維持と再生能力の加速だ。程度は未確認だが即死じゃない限り、人体の正常化を促す。」
腕にはめたリングを、指で何度か弾く。音叉のような澄んだ金属音が周囲に響き、その音は徐々に弱くなりながらも途切れずに、耳の奥まで届いてきた。
「そして<ムズムズ>は、振動や衝撃で発動して、血液を補充する。使うには……」
銀紙に包まれた<ムズムズ>を懐から取り出し、緋崎は床でその包みを丁寧に開いた。手元を覗くと、彼は指先で<ムズムズ>を少量ちぎり取り、それを指先でガムの様に隊員の防護服に擦り付けた。
そして銀紙に包まれた元の大きな<ムズムズ>を再び包み、ナップザックにしまう。
「これは健康な人体にも影響を及ぼすのが難点だ。」
「あ……」
緋崎は鼻血と、涙の様に目からも出血していた。私は懐からハンドタオルを取り出したが、彼は私に向かって言う。
「沙那は自分の血を拭いてくれ、俺は自分のタオルがある。」
そう、私も<ムズムズ>の作用で同じく出血していたのだった。
私たちは目と鼻の出血を拭きとった。
彼はフライヤーが正常に動作するかどうか確認してから、自動帰還のボタンを押し作動させる。彼自身はフライヤーから降りてそれを見送った。
「軍産共同体の軍部や研究所は敵なんでしょう?貴重な物まで使って命を救おうとするのは何故?」
遠ざかるフライヤーを見て、私はこのストーカーに問いかけた。
「それはまだ自分が人間だ、と言える確証が欲しいからだ。」
「どういう事ですか?」
「ゾーンもそうだし戦場もそうだが、生死の二元論だけの世界に長く居ると、それ以外の部分なんて簡単に消えてしまうという事を、嫌と言う程実感出来る。俺も他のストーカーも失ってしまって戻らない部分が大半だ。
だからせめて、助けられそうな奴は助ける。寧ろ、それくらいしか残って無い、という事だ。」
私はフライヤーから彼に目を移し、そして黙っていた。
「ああ、さっきの<ブレスレット>は俺が自分の取り分を使用したものだ、つまり残った<ブレスレット>二つは、沙那の物だ。」
「いえ、私は一つ持ち帰れば十分です。ストーカーの流儀に従います。持ち帰るものは折半、ですよね?」
「そうか、沙那がそう言うならそれでいい。」
それから帰還の道のりは二人とも無言に、迅速にゾーンを無傷で抜け出した。
結局、私はずっと気になってた”見つめられている感覚”を、緋崎に尋ねる事は出来ないで終わった。
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極東ゾーン北東地区・研究員宿舎、日本
結局の所、新任の司令官だった将補は、一週間経たずにまた軍の配属に戻った。
陸軍少将となってPKO派遣、これはエリートコースから外れた左遷で、内地配属の安泰なコースは望めない立場となった形だ。
なんとか生存した二人の軍人は<ムズムス>と<ブレスレット>で生命維持されていた為、義手と義足にはなるだろうが、ゾーンの生存帰還としてまたプロパガンダに使用され祭り上げられるのだろう。当然、様々な不手際や失態を隠し、他の隊員達も勇ましく散った、と脚色されて。
【ヴァーミリオン】、<ブレスレット>と<ムズムズ>で二人を救ったという事は、奴も一緒だった少女も無事にゾーンから帰還したのだろう、また大量の生成物を持ち帰って。
今、研究所の研究員として階級と任務を与えられている僕は、【ヴァーミリオン】に遠く離され、置いてきぼりにされた感覚を全身で感じた。
(奴はどれだけゾーンの安全なルートを見出しているのだろう?)
そして
(僕たちや政府、共同体が知らないような生成物を見つけているのだろう?)
あるいは
(たまたま画像に捉えた少女以外に、何人新しいストーカーを鍛えてるのだろう?)
あるいは
(なんで僕は、境界部から僅かばかりの距離で、ゾーンの端っこで、害の無い<歩く遺体>に怯えながら生成物を這いつくばって探しているだけなのだろう?)
ちゃんとした身分、法で取り決められた正攻法、そしてゾーンじゃなく研究所での出世を選んだのは僕自身とはいえ、実際にゾーンを縦横無尽に歩き回るストーカーを目の当たりにすると、そう言った嫉妬心と渇望が僕の中を満たしてくる。
その考えを断ち切ったのは、管制棟からの連絡だった。
『先任曹長、出発予定時刻の1時間前になります。メディカルチェックを受けて待機室で防護服の準備を。』
「了解しました。今、向かいます。」
この嫉妬に駆られた僕を、今回はゾーンが見逃してくれるだろうか?
いや、大丈夫だ。
僕は机の隠された引き出しから、一本の注射器を取り出した。
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東欧料理店『ティトー』特別応接室・日本
「お疲れ様【ヴァーミリオン】。準備期間も無いのに突然彼女を頼んで済まなかった。
で、無事に帰って来たという事は大丈夫だったんだな?」
「いや、軍のパトロール隊に出くわした、一個分隊だ。」
「おい冗談はやめてくれ。なんで軍に出くわしてパクられずに、蜂の巣にもされずに帰ってこられるんだ?」
「出くわしたのはゾーンと外界の境界部じゃない、ゾーンの中でだ。」
「……ああそういう事か。確か上東京の研究所に赴任したのが元陸軍の将補だ。体の良いスケープゴートと出くわした、というわけだ。」
「上東京の研究所か……【皮肉屋】が所属している所だったな。誰も止めなかったのか?」
「【ヴァーム】、お前も良く知ってるだろう、軍はそういうものだ。」
「ああ、そうだな【青鷹】。」
「で、お前に預けた彼女だ。本当に<ブレスレット>を見つけてやったのか?」
「<ブレスレット>は合計二つ、一つは現物で彼女に渡した。」
「他の獲物は?」
「<黒い飛沫>、<血の結石>、<水晶鉄>、これは100ずつ二人分。あと<ムズムズ>だ。多少使ってしまったが、それでも68mmの奴だ。」
「本当か?どんなに安くさばいたって、一人1億2,3000万は超えるブツじゃないか?」
「ああ、全部現金に代える。」
「あの娘は幸運の女神様、という所か。全部俺の所でさばくのか?
彼女を預けた借りも出来たし、値段に色は付けさせて貰うぞ」
「半分は【青鷹】ツィマーマン、あんたの所で頼む。残り半分は【水銀屋】カントールの所に持っていく。」
「おいおい、冗談は止してくれ。金払いは良くてもあの一派は”無干渉主義者”だ。折角のゾーンの生成物を金を出して集めて、全て粉々にしてしまうんだぞ!?」
「すまん、【水銀屋】に一つ借りが有ってな。」
「義理堅いな……まあ持ってきたのはお前だ、好きにしてくれ。」
「じゃあ、明日あんたとは取引だ。」
「勿論<ムズムズ>と<ブレスレット>を頼む。光り物は【水銀屋】にやってくれ。」
「わかった。」
「帰る前に、一つ良いか【ヴァーム】?」
「どういった内容だ?」
「あの彼女……沙那と言ったよな。実際ゾーンに連れて行ってストーカーの才能はあったか?」
「なんとも言えない、今回一度だけだろう?」
「死んだ息子、アーサーと同じ眼をしてて気になったんだ。【ヴァーム】お前なら解ってるんじゃないか?」
「……アーサーはゾーンで死んで、【青鷹】あんたはゾーンで両足を失った。親子二人でゾーンを巡ってた頃の事は忘れるんだ、酷だとは思うが。」
「でもお前は生きてる。ゾーンの最高の理解者はお前だ【ヴァーム】」
「……俺はゾーンの事なんか何も解っちゃいない。ゾーンの理解者はただ一人だ。」
「お前と【皮肉屋】が、アルゼンチンで一緒になったと言う男か。」
「そうだ、彼を越えられない。」
「でもその男も死んだのだろう?」
「ああ、ゾーンの外で。」
「ならお前を最高と言わない、しかし最良だ。」
「……」
「あの娘の、アーサーと同じあの眼だ。彼女はまたゾーンに足を踏み入れる。【ヴァーム】お前が付いていないとアーサーと同じ事が起きる。」
「俺が先に死ぬ事だって十分有り得る。」
「彼女から死神を追い払ってやってくれ。」
「何一つ確約出来ないぞ。あんたも解ってるんだろう【青鷹】。」
「それでも、出来る限りの事をするのがお前のはずだ。」
「勘違いするな、俺の好きにやっているだけさ。」
(序章完・本編へと続く)
拓也 ◆mOrYeBoQbw