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<35>ディープフォレスト、そして気のない男子と食事に行くかどうか問題。

じじょうくみこが誕生して丸10年。というわけで勝手に生誕記念⁉でウェブマガジン「どうする?Over40」に連載していた処女作の「崖っぷちほどいい天気」をこちらに転載しております。もはや10年より丸11年のほうが近くなってまいりましたが、気にせず続けてまいります。

まだまだ四十路ハケンOL編が続いておりますが、今回は珍獣でなく女子のお話。

あれから10年。もはや気があるとかないとか関係なく、外食に行く体力がなくなってきた五十路でございます。

それでは、どうぞ~。

*** 2015年2月1日の記事***

ディープフォレスト、そして気のない男子と食事に行くかどうか問題。


こんなところで宣言するのもナンですが、私は人の話を聞くのが好きです。

好きというか、大好物です。願わくば誰にも邪魔されず、相手の話をずっと聞いてたい。聞きながらダラダラ酒飲んでたい。聞きながら酒飲んでるうちにヤダ気づいたら息止まってたわーって感じで死にたい。

なんて言うと「なに、聞き上手アピール?」と思われそうですが、そうでないことは自分でもわかっております。それはズバリ、コンプレックス。昔から喋るのが苦手で、考えを言葉にするのにものすごく時間のかかる子でした。

知らない人に会うと緊張のあまり顔が真っ赤になり、サウナ入ってるんですかってくらい汗ダラダラになりました。人前に立った日にゃ、マイクから鼻息しか聞こえないくらいハアハアしました。

それがいつどこでどうなったのかわかりませんが、「相手に喋らせておけば自分は喋らなくてすむ」と気がつき、以来、聞き役ひと筋20年。聞き続けていると思いもよらない話やキテレツな人と出会えて最高に楽しいのですが、基本が沈黙を埋めるための会話なので話題の大半を覚えておらず、「私のことをわかってくれてると思ったのに…」と幻滅されたりもします。

不気味だとか何考えてるかわかんないとか心開いてないよね、などと言われたりもします。ある時アメリカ人女性からは唐突にこう言われました。

「クミコ、あなたは森のような人だ」


森!

森ガールじゃなくて 森っ!!


「喋らないのは頭の中であれこれ熟考しているからよね」と大変ポジティブな解釈をしてくださった模様ですが、ゆるふわヘアにふんわりAラインワンピの立派な森ガールになって、いつか妖精とたわむれる日を夢見るじじょうくみこです(でも話は聞いてません、すいません)。

2009年頃に発見された種族。首長の蒼井優がすさまじくかわいい


というわけで森には森でもっさりしてもらって、私は私で珍獣パラダイスにいますよ、という話です。(珍獣男子についてはこちら)

珍獣パラダイスでの派遣OL生活も3年目に入った春のこと。大規模な組織変更が行われることになり、下町のドSプリンス・ワタさんやイケズ京男マツタケをはじめ、珍獣男子の大半が人事異動で他部署に移ることになりました。

わずか2年の間に、メンバーの9割が転属。ここまでくると、もはや別組織です。こんなの毎年やってたらそりゃ大変だよね、とサラリーマンの諸行無常に思いを馳せたりするわけですが、とにかくその春、去りゆく珍獣男子と引き替えに大量の女子が入ってきたのです。

部署にはむさ苦しい男子校が突然共学に変わったような、そんな不思議なキラキラ感が充満しておりました。わずかに残留した珍獣男子たちも、どことなくすまし顔。ふうむ、組織って面白いな。

せっかく女子が増えたんだからということで、ある日、部署の女子みんなでランチに行くことになりました。その日集まったのは総勢15名。下は20代半ばから上は50まで、未婚、既婚、子持ちに孫持ち、さまざまな属性の女子が一同に介したのです。

初めての会食でも女子は女子、話題が次々出てきてあっという間に盛り上がったのですが、そんな時ひとりの女子が「男子と食事には行かない」という話をし始めたのです。

どういうことかと聞いてみると、「男の人と2人きりで食事に行くのは好きな人とだけ。てか、好きでもない人と食事に行くなんてありえない」と言うのです。

え。そうなの?

「働いていれば自然と会食する機会もあるでしょう。男友達だっているでしょ?」と私が言うと、その子はこいつ一体何を言っているんだという顔をしました。

「男友達いないし、いらないし。だいいち食事に行くってことはつまりオッケーってことだから」
「オッケーって何が?」
「何もかも」
「何もかもってつまりそのう…最後まで?」
「オールオッケー」
「…つまり食事に行くってことは、エッチしてもいいってこと?」
「そうだよ?」

えええええええーーー??????


あまりにも驚いたので、ためしにその場でアンケートを取ってみました。「好きな人以外の男とは2人で食事に行かない人、手を挙げてみて〜」

そのときなんと、15人中13人が手を挙げたのでした。

「だってだって、食事は人間関係の最初のステップじゃん。ごはんを一緒に食べて初めてわかることも多いし、じっくり相手の話が聞けるチャンスだし、だいたい食べ方が生理的にイヤっていう人もいるでしょ?  それでもオッケーなの? そもそも食事しないで好きってどうやってわかるの??」

「大丈夫、それまでずっと観察してるもん。いろんなところでジーーっと見てオッケー出した相手だから

見てるだけでわかるのマジなのそれ超能力級のスキルですけど!

私だって誰でも食事に行くわけじゃないですが、人として興味があれば男女問わず食事に行きます。女同士でなければ話せないことがあるように、異性だから理解してもらえることもあるわけで。

そこに異性と会っている「華やぎ」はあるかもしれないけど下心は皆無。相手も私のこと女だと思ってないし、朝までいても何もない自信あるし、実際何か起こったことも過去ないし、なんか言えば言うほど悲しくなってきましたがそう言うと、その女子はふてくされてこう言ったのです。

「だって、彼氏にやられたらイヤなんだもん」

あーーそうかと。私にとっては「ただの食事」が、彼女にとってはどうやってもそうじゃないのだと。その時ようやく気づいたのでありました。


なんかションボリ


それを聞いて思い出しました。

あれは妹が結婚して2〜3年たった頃のこと。実家に里帰りした夜、リビングでビールを飲みながらくつろいでいると、妹のダンナが風呂から上がってきました。

妹のダンナは私と同い年で、私と同じくらいお酒が好き。おまけに人なつっこいキャラクターとあって、よくぞこんなよい人を見つけてきた、でかした妹よ! と喜んでいた私は当たり前のようにダンナを迎え入れ、テレビを見ながら仲良くビールを飲んでおりました。

すると翌日、妹がひどくご機嫌ななめ。なにごとかと思ったら

「姉ちゃん、うちのダンナと2人っきりになるの、やめてほしいんだけど」

はああああ???

この女はいったい何を言っているのかと思いましたよ。2人きりも何も、家族だし! ダンナは男と思ってないしタイプちゃうし! てかそもそも最初にリビングにいたのは私だしーっ!

プリブリ怒る妹を横目に見ながら、私は実家ですら居場所がないのかとゲンナリした気持ちになったのですが、男子とごはんに行かない女子がこんなに多いのかと思うと、そもそも気軽に男子とごはん食べちゃう私のほうが間違っている気がしてきました。

ハッ、もしかして…これが四十路になっても独身の原因なの…か?

って今さら気づいても手遅れ感ハンパない(T_T)

ヨメには行きたいしなあ。でも殿方の話聞くのも好きだし、やっぱりごはんに行っちゃうなあ。まあ異性として見てないとかカッコいいこと言いつつ、相手から「異性として見てない感」をあからさまに押し出されると、それはそれでガッカリしたりもしているんだよなあ。

ああ、揺れる独女心。森に帰りたくなってきました。

By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎

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じじょうくみこ
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