arctic monkeys"the car"を聴いて
このアルバムを聴いて、どうしても書かなければならないという衝動に駆られた。様々な感情、情景が浮かび、自分の頭を整理するためにも書き連ねるべきなのだ。
アルバム全体を通して
前作のTBH&Cの延長線という解釈は、一部当てはまり、優美で音が全体的に太く厚みのあるスローなサウンドである。延長線と言い切れないのは、やはり「宇宙」から「車」にコンセプトを変え、かなり異なる情景を浮かべるからである。「the car」を初めて通した時は、「宇宙」をテーマとしても違和感が無いと思ったが、数周するうちに全く別の美しい「モノ」が連想された。
ずばり、私としては今作を通して「人間が発明した、もしくは作り上げたモノ」が"鍵"で、それは美しい「モノ」として描いていると捉えている。「車」も人間が作り上げたものであり、「ミラーボール」もそうである。今作を通すことで身近な「モノ」に特別な「美しさ」「愛着」を持つことができた。「モノ」については、曲一つ一つに視点を向けている時に具体的に取り上げていきたい。
全曲共通しているのは、「モノ」が現在の最先端の発明ではないという点である。「スマホ」や「AI」など未来的な「モノ」とは無縁である。
音楽をストリーミングサービスでたくさん消費できる今、ここまで機密に一昔前の良きものを繊細に表現したアルバムが他にあるだろうか。
それでは1曲ずつ、聴きながら書き連ねていく。
①There’d Better Be A Mirrorball
✔️「the car(車)」「a mirrorball(ミラーボール)」etc
上のワードが歌詞に出てくる「人間が発明した、もしくは作り上げたモノ」である。あくまでも私が美しいと感じたキーワードを記している。
人間が発明した「モノ」以外にもMVやシングルジャケットでも描かれていた自然界の水が太陽と反射してキラキラとしているような美しさも含みたい。地球上にある光に視点を当てた、なんとも繊細な楽曲である。歌詞の恋愛の憂鬱感や、ミラーボールを求めていることから、かなり妄想の域に入るが、関係の長いカップルが新鮮な感覚、ロマンティック、光を求めているのでは…
②I Ain’t Quite Where I Think I Am
✔️「keypad(キーパッド)」「disco strobes(ディスコストロボ)」etc
アルバム内でも圧倒的にコーラスが魅力的な楽曲である。ギターのリフと音が何とも異質で気持ちがよく頭に残る。楽曲の展開も美しく一曲で溢れ出す何かを持ち合わせている。歌詞は(私からすると)難解であるが、これもまた愛が溢れているという事がわかる。この楽曲を一番最初に聞いた時は最初のコーラスでYesを連想し、プログレッシブ路線と予想していたが、彼らは全くそれだけに留まらなかった。
③Sculptures Of Anything Goes
✔️「TV」「gallery walls」「simulation-cartridge」etc
低音から音数少なく始まる斬新な構造だ。曲の構造、展開を作るのが上手なバンドと認識しているので、これまたarctic monkeysがまた上手いことやっているなと。。。。とにかくドラムの音が分厚すぎて、(楽器について詳しくない)何か違う打楽器なのではと疑っている。
アルバムを通しても言えることではあるが、アレックスターナー氏のボーカルの音が大きいという印象。この楽曲は特にフレーズが頭に残る、「イタリアンTV」「ハレルヤ」など。
④Jet Skis On The Moat
✔️「Jet skis(ジェットスキー)」「CinemaScope(シネマスコープ)」「pyjama pants(パジャマのパンツ)」「subbuteo」etc
この楽曲に関しては、フレーズが独特すぎる。「subbuteo」のマント姿とはどういう意味なのだろうか。全くわからない。
subbuteoはボードゲームの会社である。何かを比喩しているのであろうか。
歌詞の意味がわからないので歌詞からの解釈は疎いが、ジェットスキーの波の輝き、家の中の娯楽そんな情景を浮かべた。クラシックな音が空間を満たすが、どこか物足りない静けさもあり繊細な曲である。
⑤Body Paint
✔️「tanning booth(日焼けマシン)」「writing tool(筆記用具)」etc
美しすぎる。アコースティックなサウンドが入ってるのも堪らない。何事だ。初聴ではアレックスターナー氏がサントラしている「submarine」を思い浮かべた。
「submarine」のサントラにもありそうな美しいメロディが最初に入ってきて、私はこの曲を愛さざるを得ない。しかし、suck it and see期とは全く音が別物である。これはどちらを否定しているわけではなく、より原始的な削られた音がSIAS期で分厚く濃厚にしているのが今作であると考えている。
フェードアウトしていく終わり方は現在では珍しく、5曲目になぜ入れてきたのか疑問だったが、アルバム内容として2つに分けて考えると、この楽曲が前半の終わりと言えよう。
それでは後半に移りたい。
⑥The Car
✔️「guitar(ギター)」「boat kiosk(ボートの近くの売店)」「cork(シャンパンのコルク)」「apartment(アパートメント)」「café(カフェ)」「the car(車)」「holiday(休日)」etc
はっきりと目に浮かぶ単語が次々と連なっている。「boat kiosk」曲にぴったりだ。眩しい光と波がキラキラとした海を横目に聴きたい。ギターの細かい入りが穏やかであるが、ベースとドラムの定期的な入りによってかなり深みのある作品に。後半1曲目として相応しい不穏な雰囲気で、アルバム全体がどこへ向かうのかわからなくて非常に良い。
⑦Big Ideas
✔️「spot lit(スポットライト)」「mandolin(マンドリン)」「orchestra(オーケストラ)」「the phone(電話)」「band(バンド)」etc
「スポットライト」の歌詞からも曲調からも完全に歌謡曲を思い浮かべた。ストリングスが切なすぎる。ピアノソロであろうか、またエレキギターソロも演歌すぎる。arctic monkeysがこの路線の音楽を作り上げるとは思いもしなかった。正直、私が演歌界隈や歌謡曲の音楽を聴き漁れていない。とは言え、ukロックバンドとして知られている彼らが今作でこの楽曲を作り上げるのは極めて新鮮で、斬新である。2022年のUKチャートの上位を争うことになるであろうbandがこの形態の音楽を出してくるのか。。。。圧巻。。。。日本の歌謡番組にこの楽曲でarctic monkeysが出ても盛り上がるに違いない。
⑧Hello You
✔️「Lego (レゴブロック)」「movie(映画)」(一部フレーズを分解して記載)「the car(車)」「tractor(トラクター)」etc
トラクターなんて歌詞にあるので少し砂っぽい情景を頭に浮かべてしまった。密かに存在しているパーカッションが非常に気持ち良い。勇ましく、メロディアスでベースラインは脳に残る。アルバム全体から見たらHello Youはかなりポップな曲調だ。転調の箇所も絶妙で胸がフワッと解放されていく。歌詞的にも若々しさを求めていると読み取れて、曲調のノリと非常に一致している。しっとりと上品であるが、アクティブな一曲である。
⑨Mr Schwarts
✔️「heavy metal(ヘビーメタル)」「love song(ラブソング)」「velveteen suit(ビロードのスーツ)」「dancing shoes(!!!!!)」etc
ここにきて柔らかいアコースティックギターサウンドで始まる。他曲に比べて広がりが少ないものの残り2曲というところで、この静かで小さなキラキラとした楽曲が流れるのはアルバム全体の構成のまとまりがあって美しい。フレーズも「ヘビーメタル」と始まるが、アコースティックで、トロトロのラブソングで対照的に「モノ」を思い浮かべれる。
出てくるフレーズも「ビロードのスーツ」「wardrobe(洋服タンス)」と光景が想像できる。やはり、地球規模の美しさは身近にたっぷりある。最初に書いたように、それは最先端な「モノ」でなく、若干のアナログさがありノスタルジックである。
⑩Perfect Sense
✔️「Hotel notepad(ホテルのメモ帳)」「money(金)」etc
このホテルは間違いなく今の時代でも無く、宇宙でも無い。薔薇戦争期の地球上のホテルで、ヨーク公は大金を使って楽しんでいるのだ。終わりの曲は恋愛とはかけ離れており、ドロっとしたお金、暴露、レースなどが書かれている。ああ、これも地球規模の話で、何だか「諦め」と「少しの願望」を強く感じられる。
私はまだ24時間、12時間も経ってない今、このようにして"the car"を解釈した。
これは、正しい間違っているなどの話では無い。今のこの感情を書き留める必要があり、少しでも私が彼らのアルバムと向き合い整理するために書く必要があったのだ。
読んでくださった方とはまた違う解釈だったり、共感する箇所もあるかもしれない。
私の解釈が更に変わる可能性なんてあるに決まっている。100%と言ってもいい。このアルバムの解釈は歳をとるにつれてどんどん変わっていくだろう。
だからこそ、記録しておく必要があり、一生付き合うアルバムだと確信したからの行為である。
また、何か衝撃的なアルバムに出逢ったらこのようなnoteを書き留めるかもしれない。。。。
地球は鬱々としていても美しい。
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