「aftersun アフターサン」
原題:Aftersun
監督:シャーロット・ウェルズ
制作国:イギリス・アメリカ
製作年:上映時間:2022年 101min
キャスト:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ロウルソン・ホール、ケイリー・コールマン、サリー・メッシャム
「思春期真只中11歳、ソフィは離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。輝く太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、親密な時間をともにする。
20年後、カラムと同じ年齢になったソフィは、ローファイな映像のなかに大好きだった父の、当時は知らなかった一面を見出してゆく…」
*公式ホームページより
オープニング・クレジットで意図的な音が気になった。しかし、それは作品が始まると答え合わせがすぐにできる。(この監督に限らず、オープニング・クレジットから作品が始まっている展開。)
挿入歌の話題がレヴューにも多くあったが、寧ろ、監督は音を丁寧に扱っていた印象が残る。そのようにみると、その中での挿入歌の位置付け。
いつものように事前情報は見ず、館内で見た予告だけの情報で観てきた。
友人と観終わった後、一場面だけ気になるシーン語について語り合う。帰宅して他の方々のレビューを拝見するとやはりそのシーンについて意見は二分されていた。
最終的には監督のインタビュー記事を探しこの部分の謎は解決。
敢えての畳み皺がデザインされている映画のポスターが示すように、記憶はどこかに仕舞われ、そして、時々引き出されては、また、丁寧に仕舞われる。それは人の数だけ異なり、奥深く仕舞われるのか手が届く傍なのか。しかし、記憶はその作業を重ねる度に少しずつ上書きの中で変容していくことは確か。
この作品は、監督が云う記録と記憶がシンプルに描かれていた。シンプル過ぎるが故にシーンによっては解釈が分かれる展開を生むが。
リゾートホテルでの描写はここ数年海外へ旅行へ行けなかったこともあって懐かしさが勝って素直に観ていた。ホテル滞在の数日は小さな村のようなコミュニティで宿泊客は遊びも含めて生活する。
この作品は娘から見たあの日の休暇である為、そこに描かれている父の本当の思いや考えはどこにあるのだろう、と次第に気になり始める。
11歳のソフィに大人である父の心情が理解できるはずがそもそも無理な話。それでも、人は過去を振り返るとき「If : もし」を使ってしまうことがある。ソフィがビデオカメラ記録を元に過去の記憶の海へ漕ぎだしたそこで見る風景がこの作品全体の絵。父と同じ親になって振り返るそこには幼い子には見えなかったおとなの事情も見えるようになるのは至極当然か。
眩い太陽の下だからこそ、尚のこと時間が限定された父娘のその姿が余計に切なく映る。父の思い、娘の願い。
今年観た「The Son 息子」も離婚というおとなの勝手な事情に巻き込まれた子が描かれていた。親は今後の生き方を両者同意で軌道修正しようとも、子はそのことに同意できなくとも強制的に生活を変えさせられる理不尽さ。
「残すから 私の小さな 心のカメラに」
ソフィの中に残った父の姿が全てでいい、と。その姿が世界一のパパであれば尚のこと、それが真実。
日本での詩人は欧米と異なり評価が低い。
aftersun のような散文詩的な作品は、この国では観る者を択ぶかもしれない。命題が透けて見えるでもなく、起承転結のような読点が打たれることもなく淡々とカメラは表情をすくっていく。それでも、最後に大きな余韻を残し、未回収だった事柄に答えを見せてくれる。
★★★☆