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「永遠に僕のもの」

原題:El Angel
監督:ルイス・オルテガ
製作国:アルゼンチン・スペイン
製作年・上映時間:2018年 115min
キャスト:ロレンソ・フェロ、チノ・ダリン、ダニエル・ファネゴ、セシリア・ロス

 館内に入った瞬間の異様さ。世間ではこの映画がどう紹介されているのか。凡そ普段はこの類(クライム)を観ないだろう20代を中心とした女性客層で引いてしまう。犯罪者の「ビジュアル」が良ければ犯罪内容には興味がないのかと、もう10年以上前の国内犯罪リンゼイさんが殺害された時の市橋達也が妙に騒がれたことを思い出し何だか不快。でも、実際はそこまで考えて映画館には来ていないのだろう。

 作品モデルになったカルロス・エデュアルド・ロブレド・プッチは、1952年ブエノスアイレス生まれ。19歳で共犯者と強盗に押し入り貴金属、現金等総額35万アルゼンチンペソ (約240万円) を奪う。逃走する前に眠っていた所有者を射殺。同年共犯者とメルセデス・ベンツの自動車部品を扱う会社勤務ビセンテ・ロペス 宅に侵入。ロペス夫妻と生まれたばかりの子に発砲。この発砲で夫が亡くなる。40万アルゼンチンペソ (約270万円) 相当を強奪し、逃走する。
同年スーパーの警備員を殺害。
同年2人の若い女性を襲撃。
同年共犯者アイバニーズ を乗せ、車事故を起こし彼は死亡。事故後逃走しているプッチは意図的ではなかったかと云われ、映画でもこの部分は使われている。
プッチはヘクター・ソモサ という新しい共犯者と犯罪を再開。
同年二人はスーパーマーケットに侵入し警備員に発砲して負傷させる。
2日後二人は車販売代理店に押し入り、従業員を射殺。
同年二人は別の車ディーラーに侵入し、100万アルゼンチンペソ (約680万円) を強奪。従業員を射殺し、逃走。
翌年二人はハードウェアストアで警備員を殺害、強盗。この最中プッチはソモサをも射殺する。
 プッチによる殺人は11人、1件の殺人未遂、17件の強盗、1件の強姦、1件の強姦未遂、1件の性的虐待、2件の誘拐等で起訴。殺害方法は射殺だけでなく残忍極まるものもあった。

 観終わってフィクションではないモデルの彼がどのような犯罪者だったのか気になって調べると、上記のような2年少し短期間に異常な犯罪歴でキーボード打ちながらその鬼畜ぶりにウンザリしてしまう。

 監督インタヴューに「怪物ロブレドとは異なる、架空のキャラクターを作り上げた」あり安堵する。だとするとこの作品がクライムムービーと云われても仕方ない。
 また「(カルリートスは)自分の行動が撮影されていると思っている。神の注意を引き、神を感嘆させたいのだ。日常全てが舞台であり、死さえも現実のものだとは思っていない。伝説の人物になったつもりで歩き、ダンスをするように強盗を行う。運命などただのヤラセに過ぎないと思っている。だから自然をないがしろにする」とおっしゃる通りの作品仕上がりだ。
 カルリートスの台詞「神の使者だ」と云わせたのもこれらの反映のよう。

 学校で知り合う最初の犯罪相棒ラモンの存在は映画作りでは王道的な相棒ではあるが、作品途中からラモンに対するカルリートスの近づいた気持ちが失望で離れる辺りは青春作品のよう。台詞では語らせないが心情の変化を描いている。
 全体に「意識しない犯罪」を描く所為か、作品に細々とした心情は乗らず音楽と共に流れる傾向の中、差し込まれる二人の関係は丁寧に辿っている。

 どれほどビジュアルが良くても、「非常」を超えて「異常」の世界。
 作品モデルのカルロス・エデュアルド・ロブレド・プッチが精神障碍等弁護で刑期が短くなってなくてよかった。何にも縛られず、相手の気持ちも状況も考えず自由に振舞った代価が今尚閉ざされた刑務所服役をどう受け止めているのか知りたいところ。作品では全くそうした現実は一切描かれない。

 音楽が効果的に使われその時代の輪郭をうまく縁取り当時の衣装・髪型等と同様の効果はあった。只、下着姿のアップが多いのは不要に見える。失礼な発言だがもうジャニーズ系なのか、と。
 モデル不在のフィクションであったなら、もう少し楽しめたかもしれない。犯行動機は本当に強いて言うべきものはなかったのか。
 犯罪というアイススティック棒に絡んで融けてしまった青春、最終印象。
★★

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