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4.石畳と坂道

 生まれ育った長崎は坂の町としても知られ、町を歩くと至る所で坂道にぶつかる。生活路が坂道なのである。中学校を除いて全て坂の上に学校があった。長崎のような坂道風景が少ない関東での生活が長くなった所為か、リスボアで出会う坂道には懐かしさがあった。
 リスボアは長崎とは違い入り江深い港町ではないが、テージョ川河口に面し水面に町が近い意味では風景が似ている。坂道と共存した町。坂道に逆らわず坂道に沿って家々が上へと伸びていく。当然、それらの道は狭い。階段も多い。

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 ポルトガルで困ったのは「坂道」ではなく、正確には「石畳」だった。
 成田から一睡もしていない躰には、到着した都市のこの坂道尚且つ石畳道が兎に角堪えた。坂道でスーツケースを引き歩くことに加えて、同時に石畳の石「一つ一つ」の上を引き上げる作業に等しい。(「石」を強調文字にしたくらいに辛かった。数メートルで終わる坂ではないため石に対する抵抗力が半端ではない。)
 形ばかりの石畳ではない為、表面は平坦ではなく文字通り一つずつ石ころを地に埋め込みゴロゴロ、凸凹としている。見ている分には風情があって良いがスーツケースを引いて歩くには疲れる。今回は踵がある靴は一足も持参しなかったが、それでも旅行者には過酷な石畳だった。
 ヨーロッパのベビーカーの作りが頑丈であるのもこうした道を考慮したことだと解る。長崎のオランダ坂も石畳ではあるが、オランダ坂を始め他の幾つかの坂道にある石畳は観光資源として存在していて町全体を覆ってはいない。そもそも石ころを埋めて造った石畳ではない。
 ところが、ヨーロッパ、少なくともポルトガルでは車道にも石畳が敷かれてアスファルトが少ない。日本の様に始終路面を剥がす工事もないのだろう。歴史に磨かれ角を落とした石畳がさりげなく足下に広がる。

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