見出し画像

「僕たちは希望という名の列車に乗った」

原題:Das schweigende Klassenzimmer
監督:ラース・クラウメ
製作国:ドイツ
製作年・上映時間:2018年 111min 
キャスト:レオナルド・シャイヒャー、トム・グラメンツ、レナ・クレンク、ヨナス・ダスラー

 ドイツ語訳「静かな教室」であれば英訳タイトルの方が邦題よりも内容を表している。
 ドイツ映画での戦争関係作品は圧倒的にナチス絡みが主流になる。この映画は第二次世界大戦後東西ドイツ分断下それでもまだ「東西を分ける壁が築かれる前」1956年、東ドイツの高校生テオとクルトが列車で訪れた西ベルリンで、映画館を訪れるシーンから始まる。

 余計なお世話ではあるが念のため地図表示。*壁はこのベルリン都市の中で1961年建設される。国境ではない。
 壁が築かれ前はこの飛び地のような狭いエリアであるが人々は列車で行き来が出来ていた。但し、当然ながら検閲付き。映画の中でも描かれているよう墓参りという理由での行き来が可能だった。年末は親戚を訪ねる等で検閲が緩くなる時期もあった。

 西側の映画館で観たニュースの中でソ連撤退を求めて蜂起した市民が多数死亡した「ハンガリー動乱」を知ったテオとクルトは、東ベルリンに戻った際クラスメイトに「授業中」ハンガリー市民への2分間の黙祷を提案する。
 ソ連支配下の土地でそれを行うことがどれ程危険なことであるかは、特にエリート育成クラスの彼らは理解していた。

 この純粋な正義感が学校存在さえ揺るがし大きな問題を膨らむ。

 真相解明に派遣された役人は、まだ生徒である彼ら相手でさえ容赦なく一人一人嘘を心の痛みもなく口にしながら冷酷に追い詰めていく。

 クラウメ監督は「独裁との対立や表現の自由、連帯という普遍的なテーマを描いている」と話されている。密告をするのかしないのか、それを超えてクラスメイト互いの信頼が「いまを生きる」のような生徒群像作品に仕上がっている。

 クルトのモデルは、1939年にベルリンで生まれた故ディートリッヒ・ガルスカ氏。西ドイツで文学や社会学、地理を学んで高校教師となり、2006年、自らの経験を著作にした。映画の原作者である。
 2018年2月、ベルリン映画祭で世界に初披露。ガルスカ氏はこれを見届けるかのように約2カ月後、生涯を終えられる。*作品は監督が彼の自宅の居間にプロジェクターを持ち込み、上映会を開いたそう。
★★★★

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?