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「イニシェリン島の精霊」

原題:The Banshees of Inisherin
監督:マーティン・マクドナー
製作国:イギリス
製作年・上映時間:2022年 114min
キャスト:コリン・ファレル , ブレンダン・グリーソン , ケリー・コンドン , バリー・コーガン 

 アイルランドの国が好きな私はアイルランドが舞台になる作品には他の人よりも反応が強い。一方で、日本が舞台になった外国主導の映画作品において歪んで描かれた日本に悲しくなるようこの作品も諸手挙げての歓迎になるか当初は不安ではあった。

本土から離れた島

 マクドナー監督自身がアイルランド移民両親の子としてロンドンで生まれ育たったが両親はアイルランド西部出身。母親はスライゴ州イースキー出身、父親はゴールウェイ州コネマラのレターマレン出身。
 マクドナー監督は子供の頃、多くの夏をゴールウェイ州で過ごしこの地域にあった手つかずの野生の風景を鮮明に覚えていたそう。
 マクドナー監督がインタビューの中で「子供の頃から、これを写真に収めることは自分にとって面白いかもしれないと思っていました。ですから、アイルランド映画を作ることになったとき、頭の中に最も美しい場所のカタログができあがります。アラン諸島が一番上だった」とも答えていて、私としては安心して観られる作品だった。

 「本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。」 *公式ホームページより引用

 1916年にイギリスの圧政に反旗を翻したが情け容赦なく鎮圧され、その後は内乱が続いた本土の風景が作品内でも触れられていく。
 本土での内戦に対して相手も規模も異なるがイニシェリン島でも人との間で起こった小さいながらも深い争いが描かれていく。

パブの前で

 パードリック側から見る限り、彼は長年友情を育んできたかもしれない。
 しかし、それは限界集落さながらに限られた島民の中で消去法的に結ばれた友情かも知れないのだが、彼はそれを疑おうともしない上変化のない平安に住み続けていた。 

音楽という表現をもつコルム

 方や、コルムは自身の余命を考えた時に自身が命終えた後にも残り続けるものに関わりたいと楽曲制作に専念することを択ぶ。
 映画作品であるためかいささか針の振りが大きく中庸などの選択肢なく、コルムは友情での生活を縮小しつつ作品活動に軸足を置くという生活は描かなかったところにこの作品は描かれる。

コルムの家の窓を覗くパードリック

 作品の中で何度も現れるコルムが窓を覗くシーンと窓の内側に居るコルム。

家の中に居るコルム

 パードリックが考えていた友情では、コルムの心の中にある悩みまでは見えなかったのかも知れない。いつもそこには一枚の窓が二人を隔てていた。
 近くにいても触れていない相手のこころ。

シボーンとジェニー

 人生を見つめ直したコルムと同じく生き方をどうにか変えたいと願い行動するパードリックの妹シボーンにとってはプライバシーも存在しない小さな島はどんなにか息苦しいことか。

相変わらずの存在感 バリー・コーガン

 少ない登場人物ながら個々の存在は際立ち、其処にイニシェリン島の変わらぬ自然が背景として広がる。
 コリン・ファレル, ブレンダン・グリーソン, ケリー・コンドン, バリー・コーガンの皆さんがアイルランドで生まれ、マクドナー監督もアイルランドに繋がっていた。最近、これほど純粋にアイルランドの色で染まった作品はなかっただけに素直にうれしい作品。
 只、邦題ではよく努力を放棄して原題をそのままカタカナ表記で出すこれまでの事例があるにも拘わらず Banshees を精霊としミスリードするような訳で出すことには不快感が残る。
 妖精の国と云われるアイルランド、アイルランドから遠い国日本で妖精と精霊の区別がそもそもつくのか。特に Banshees は「アイルランドの民話に出てくる泣き叫ぶ姿をした妖精」「家族に死人が出ることを泣いて予告する女の精霊」とかなり独特だ。

パードリックとジェニー

 イニシェリン島の精霊の撮影は、アイルランドのゴールウェイ州沖のイニシュモア島 (人口 762 人) と、アイルランドのメイヨー州沖のアキル島 (人口 2,594 人)。
 余談、私たちもアイルランド旅行中ロバに会い楽しいひと時があった。作品出演のロバのジェニーはこの島の子だそう。
 一回目のアイルランド旅行ではゴールウェイまで行きながら時間に余裕がなくアラン諸島へまで行けなかったことがあの時も心残りだったが、今回この作品をパートナーと観て二人して今度は(アラン諸島に)行きましょうね、と当然のようになった二人。

★★★★


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