「クロース」
原題:Close
監督:ルーカス・ドン
製作国:ベルギー・フランス・オランダ
製作年・上映時間:2022年 104min
キャスト:エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワエル、イゴール・ファン・デッセル、エミリー・ドゥケンヌ
「花き農家の息子のレオと幼馴染のレミ。昼は花畑や田園を走り回り、夜は寄り添って寝そべる。24時間365日ともに時間を過ごしてきた2人は親友以上で兄弟のような関係だった。
13歳になる2人は同じ中学校に入学する。入学初日、ぴったりとくっついて座る2人をみたクラスメイトは「付き合ってるの?」と質問を投げかける。「親友だから当然だ」とむきになるレオ。その後もいじられるレオは、徐々にレミから距離を置くようになる。」 *公式ホームページより
思春期という言葉は一見便利そうに、或いは雄弁そうに見えるが本当に彼らの内面を伝えきっているだろうか。
子は成長に伴って関わっていく世界も身内だけの狭い関係から、違う考え方をする人も含めて手探りの広い世界へと放り出されていく。
仲が良いことは人から後ろ指をさされるような事柄ではない。幼い子らが女の子同士、男の子同士じゃれあってもそこには波風は立たない。
しかし、体が成長し、家族ではないグループに入った時に身体的な(勿論、時には精神的にも)癒されるその極めて個人的空間が共通認識から外れているかもしれないことに気付かされる。
作品では入学間もない時期にクラスメイトの女の子に「付き合ってるの?」と聞かれる、レオとレミ。
レオは瞬間的にそこで本能的に思春期のスイッチが入った(ように私には見えた)。
レミの方は、まだ、性格がおっとりしている分女の子らの発言の真意まで伝わってこない。基本的にレオとレミの仲の良さは変わらないのだが、この二人の温度差が少なくとも他者の視線がある場での行動に違いを呼んでしまう。
中学校という新しい世界を仲良しのまま楽しもうとするレミ、不安な中学校生活だからこそ今までのように二人で波を乗り越えていきたかったのか。
けれども、明らかに自分を避けているレオの気持ちに全く理解が及ばなくなっていく中でレミは孤独を知ってしまう。
レミのことはずっと気になっていることは変わらない、嫌いになったわけではない。それでも、どう接していくとよいのか大人の入り口で迷う中でレオはアイスホッケーを択び二人の距離は遠のく。
花畑のやわらかさと中世的な世界に対し、体を防具で固め力でぶつかっていく世界は対照的だ。
レオも、また、行動的に見えてもレミと同じように悩んでいる。
LGBTQ+ の世界への理解は、世代や国、夫々の置かれた立場で千差万別。
まだ、まだ、理解されない部分が多い。こうした過渡期の十分な配慮が期待できない状況でも子らは育っていかなくてはならない。
せめて、もっと性(表面上の男女差)に囚われずに個人が大切にされる時代になるよう大人は意識するべきなのだろう。
年齢が仮令幼くても人は責任を負う場面がある。
レオだけが責められる状況ではないが、レオがその責任に押しつぶされそうでいたたまれない。
アイスホッケーで骨折した腕が完治しギブスが取れた時、骨とは違ってこころが折れたレミのことをきっと痛いほどレオは理解した筈。
監督がインタビューでおっしゃっていた「私は紙にいくつかの言葉を書き留めました:友情、親密さ、恐怖、男らしさ...そしてクローズは そこから生まれました。その後、Angelo Tijssens ( 『Girl』の脚本パートナー) との会話を経て、脚本が形になり始めました。」という言葉。
友情、親密さ、恐怖、男らしさ、それらは手に取るように描かれていた。
前作「Girl」もそうであったように、決して声高にはならず人に寄り添うような作品は静かに、確実にメッセージが伝わってきた。
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