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「北の果ての小さな村で」

原題:  Une annee polaire
監督:サミュエル・コラルデ
製作国:フランス
製作年・上映時間:2018年 94min
キャスト:アンダース・ヴィーデゴー、アサー・ボアセン、ジュリアス、トビアス

 予告も見ていず、全く事前情報ゼロの状態で当日映画タイトルだけで勘を頼りに観た作品。

 グリーンランドは地理学習程度しか知識がない。村民80人の学校を赴任地に択んだ彼が小さなボートで氷をかき分け進むシーンから始まる。彼が敢えて首都を択ばず未知の世界へ向かうそのシーンは心情が重なった。

 グリーンランド(ヌーク:西側)の気候について:
 ヌークでは、夏は寒く、冬は長い上に凍える寒さ、風が強い。年間を通じて本曇り。 1 年を通して気温は 「-11°C~ 10°C」に変化するが、-18°C 未満または 13°C を超えることは滅多にない。観光点に基づく1 年のうちヌークにおける温暖気候での活動に適した時期は「7月中旬~8月上旬」まで。暖かい季節は、6月9日から 9月11日まで 3 か月続き、1 日平均の最高気温は それでも6°C を超える程。

 日本でいう教育員会或いは文科省のようなところで彼は辞令を受けるにあたり、赴任先では「デンマーク語で授業を行うこと」を強く念を押さえられる。この言語の障壁は彼を苦しめる。
 グリーンランドは1917年以降はデンマークの支配が全島に及び、1953年本国の県と同様の自治権を得る。1973年デンマークのEC加盟絡みを背景にグリーンランド住民は反発し自治を要求。1979年5月に自治政府が発足し、グリーンランドはデンマークの自治領となっている。独自の自治政府が置かれている現在の公用語が「グリーンランド語」となると、彼の態度がデンマーク本国からの歩み寄りを示さないばかりか、彼が話す押し付けのようなデンマーク語を耳にするだけで村民が反発し距離を置く態度はこれまでの国の歴史をみると明らかなこと。
 少なくとも赴任当時の彼は、かの昔世界中に散って布教をしたカトリック宣教師のようだった。

 村の規模から解るように当然複式学級である。天真爛漫という表現は授業者から見た時には大変なことが多い。素行も決して行儀が良いとは言えない、教師の話を聞こうともしない児童ら。
 だが、彼が理想とする授業をこの地域に住む人は全てとまでは云わないが必要としない為に、実は彼が展開する授業自体にも改善が必要だった。
 村を知っていく中でそれに気が付いた彼は、ある日の授業を総合学習或いは社会科延長の形で子らが憧れる職種「猟師」を招く。上のシーンは猟師さんから何か質問は、と問われ次から次に手があがる場面。

 水道も家には引かれていない家。デンマークに在る稼業農家を継ぎたくなくて択んだ教員。赴任地を提示されたグリーンランド首都を択んだとしても自然の厳しさには変わりはない。
 村民は学校を卒業しても此処から出ていかない。また、択べる職種自体15種くらいのものだと世話役が諭す。

 村を覆い包んでいる豪雪が生活の自由を奪っている、と考えていた。
 短い夏の風景に顔を出したのは畑になるには肥沃さからは遠い土。夏と云っても気温は日本の冬10℃。食生活が漁業と狩猟に支えられることになる。
 雪が在っても無くても生活していくには過酷な土地だった。
 けれども、此処には此処にしかない自由としあわせの形があることを赴任した彼は生活と共に知り、同時に村民との距離も埋まっていく。

 エンドロールの前に現地の方々が出演しているだろうことは、その台詞のぎこちなさから十分伝わっていた。けれども、エンドロールのキャステイングと演技者の名が同じあることを最後の最後に知る。本当にドキュメンタリーだったのね、と。

 犬たちもまた、日本の服を着せられた彼らと同じ仲間とは見えない逞しさを持つ。本来の姿が此処にもあった。
 通過者の旅行では決して見えない世界が圧倒的な自然と共に、そして、監督の愛情と共に丁寧に描かれていた作品。
★★★★

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