「レ・ミゼラブル」
原題:Les miserables
監督:ラジ・リ
制作国:フランス
製作年・上映時間:2019年 104min
キャスト:ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、イッサ・ペリカ
読書から縁遠い人も、ミュージカル作品、或いは最近ヒュー・ジャックマン主演で映画化された「レ・ミゼラブル」は知っている人も多い筈。
そのヴィクトル・ユーゴー著『レ・ミゼラブル』の舞台となったパリ郊外の「バンリュー」地区を舞台に現在(今)の混沌とした出口が見えない課題が描かれている。
フランスで実際に起こった2005年10月27日の暴動に触発され、監督は「人々はその暴動について外野席からは語るが現場へ行かない」ことに対してその現場を描きたかったそうだ。
ステファン(ダミアン)は、モンフェルメイユの郊外へ異動となる。その異動風景、同僚の出迎えシーンは予告を知らなければ警察側ではなく暴力団側と勘違いしそうになる会話から始まる。
貧困、人種差別、移民、宗教と幾重にも問題は層となり、その上絡みあう。その中での正義がどこにあるのか。
三人の警官他ごく一部が本職俳優、80%は作品の中心となるイッサも含め地元に住む人々が演じている。実際に監督がこの地で10数年カメラを回し続け地元の人々とは通じ合っていた。その辺りが、窒息しそうになる閉塞感の演出に活かされているのだろう。
脇役だが外せないドローンを操る少年。この息詰まる鉄筋コンクリートアパートで囲まれた牢獄のような場所から、彼は空へ逃げ自身が所属する町を俯瞰し、それら全てから距離を置こうとするように見えた。
フランスの小説を読むときに感じることが、児童・生徒に関しての成熟度に日本と明らかな差があること。
この作品も子らの窃盗問題に端を発し暴動へと進むが、其処には可愛らしい子の姿は描かれていない。この年齢で既に不満は怒りへしか行動化されない悲しさ。大人のまだ多少はある分別も持ち合わせない子ら(小中学生にあたる)の暴走には歯止めが効かず、寧ろ、力(銃)で封じ込むことも出来ず警察側は苦戦を強いられる。
終始観ていて、公正さを表す象徴・シンボルである天秤はどう傾いているのかと考えさせられる。清廉潔白では務まらない荒れた地域での警察とギャング団の力関係と均衡。均衡が保たれていることも実は見せかけであることを双方が分かっている怖さ。
「悪い草も人もいない、育て方が悪いのだ」と小説「レ・ミゼラブル」からの引用が終盤あったが個人的には全面的に賛同できず、自己修正は出来ないか、全て環境や政治の所為なのか、とやや消化不良で終わる。
そのようにしか育てられない現状の厳しさを私が、まだ、深く知らないからかもしれない。そして、私たちが話すフランスはあまりにも限られた観光という世界ということを再確認させられる作品。
★★★☆