「リチャード・ジュエル」
原題:Richard Jewelll
監督:クリント・イーストウッド
製作国:アメリカ
製作年・上映時間:2019年 131min
キャスト:サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、ポール・ウォルター・ハウザー、オリビア・ワイルド、ジョン・ハム
1996年アトランタ爆破テロ件。公園に仕掛けられたパイプ爆弾を爆発前に発見した警備員が英雄から一転し容疑者扱いになり生活全てを壊される。
上記写真は当時の写真。人々の命を大きくなるかもしれなかった被害から守った筈が一転し犯人扱いになった時の彼の絶望感は想像だに出来ない。
この場合の落ち度はどこにあったのか、FBIのプロファイリングの甘さか、記者の権力癒着から得たリークか、メディアの功名心欲しさのモラル欠如か、受け手側の野次馬暴走だったのか。これら全てが相乗効果になった、そして、1996年の過ぎた話ではなく今も通じる怖さとして現在それらはスマートフォン普及で更にヒートアップしている。
多くの人が容疑者経験はない。どれほど犯罪小説を読もうがそれら内容は役には立たない。初めて容疑者と置かれた立場で権力側に要求されている事項に「協力してくれ」と言葉を添えられると、それが自分を落とす材料になるかもしれないとは考える冷静さは、おそらく持ち合わせられない。
一般人には言葉一つ言質となり命取りとなるその特殊な世界なことは何も分からない別世界だ。
「スリー・ビルボード」「ジョジョ・ラビット」と演技を観ていたサム・ロックウェルの演技がこの作品でも光っていた。
極めて厳しい状況での弁護は、ジュエルが置かれた立場だけではなく、ジュエルの正義感からくる偏執的な性格に往生しながらも依頼者に寄り添い助けていく姿が自然だった。
作品を観ながら、外野席の本質が知りたいのではなく好奇心が満たされることだけを追っている姿が対岸のことには見えなかった。ジュエルの本質は関係ないのだ。ジュエルの包装紙だけに興味がある。だからこそ、事件本質に無関係な体重、私生活も晒されそこには最早プライバシーは存在しない。
もし彼の包装紙がエール大学を出て弁護士だったが今は警備員、家はヨットも所有する裕福な背景だった時、同じような土足で入っていくのだろうか。
彼がその後希望の職に就けたことは幸いだった。
作品は真犯人を追って話を大きくすることもなく、想像つくところは各自で、という感じで説明過多な余計なシーンは撮られていない。
しかし、FBIに押収されたキッチンのタッパーウェアにふられた黒々とした38の数字は印象的だった。本来であれば数字を消して返却すべき物を自分たちの仕事が終わったままの状態で返す横柄な姿を丁寧に撮る。
また、印象的なことの一つに、特殊メイクを施さなくとも役者皆さんが驚くほど当事者の方々に似ていらした。役に成りきることはこういうこと。
★★★★
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