「アトミック・ブロンド」
原題:Atomic Blonde
監督:デビッド・リーチ
制作国:アメリカ
製作年・上映時間:2017年 115min
キャスト:シャーリーズ・セロン、ジェームス・マカボイ、ソフィア・ブテラ
スパイ物設定困難の一つに完全には消失していなくとも東西冷戦消失とデジタル化がある。そうなるとこの映画のように正にベルリンの壁崩壊時期であれば描き易い。消えたリスト奪還の為にMI6、KGB、DGSE、CIAと正揃いだ。
以前からシャーリーズ・セロンの「肩」と「背」がとても逞しく、ヌードになっても今一つ色気を感じさせない人だとみていた。しかし、今回は彼女の躰から所作の全てが無駄なくヒロインに反映している。
冒頭夜明け前の太陽光線が無い青い世界から序奏は十分に予感を含み、物語としては回顧の形で時間を遡っていく。
主役が男性であっても違和感があるのは1対多勢の設定。作り物の世界とは云え時に興醒めする。それに対し今回はシャーリーズ・セロンが女性であった為の設定なのか対する相手は2,3人程度に抑えられ寧ろリアル感が生まれる。
それでもここまで全てのアクションシーンを自らでこなす彼女に脱帽。特に後半の階段逃げ場が無いシーンでは約7分の長回しで見せ場を作る。
遠隔操作や機器を利用した諜報活動よりもカーチェイスも含め、接近戦での誤魔化しが効かない展開はある意味オーソドックス。
ストーリーは典型的なスパイ物で捻りはないが、ジェームス・マカボイの怪演が二転三転する話に大いに貢献する。
ネオンをはじめ白のコートで闊歩するロレーンの姿、色彩で楽しみ合わせて当時の音楽がバックで流れ続け心地良いクールさが全体にある。単に時代を合わせただけではなく劇中挿入歌に「Under Pressure」が流れた時はゾクッとさせられた。冒頭の顔に青あざロレーンが見せるよう決して彼女は桁抜けてのスパイではない。
女性ならではの小道具とベルリンの壁、その他再現された当時の様子も丁寧。スクリーンの細かい遊びを楽しんで欲しい。今回は話がシンプルな為油断するとネタバレになりそうで奥歯に物が挟まった記録となる。
ロレーンが度々ウオッカをロックで飲むシーンが好き。水のように透明な度数強いウオッカを儀式のように流し込む。ビールであっては絵にならないし、スコッチもまた同じ、ウオッカの冷たさと熱さがロレーンに似合う。
まるでCGで描かれた女性に見える顔もあった。42才年齢を感じさせない、いや、女性に年齢の意味を持たせない。日本は只々躰の線が細く、若いだけが女性へ求められる事とは違って海外の映画では女性に対し知性を求め、時としてロレーンのようなタフさも要求してくる成熟さがある。
立ち止まらなシャーリーズ・セロンを観たい方は映画館へいらしてください、クールな彼女が居ます。
★★★☆*4に近い3.5