8.Catelo de Sao Jorge サン・ジョルジュ城
Ⅲ:◇サン・ジョルジュ城を後にして
地下鉄・バス・トラムを自由に乗車出来る一日乗車券を購入したので、フィゲイラ広場までさして距離はないのだが絵葉書等でよく見る風景を楽しもうと乗り場で黄色いトラムを待つ。
この時点では私たちは東の端の国から訪れたしあわせな観光客だった。
明らかに制服ではない人がトラム乗り場であれこれと「この車両は満員だ、次のトラムに乗れ」「列を作れ」等の指示を出している。
最初は同じ乗客かと見ていたが、親切なのか暇な人なのか結局は彼の立場は解らず、指示を出すと到着したトラムには空いていても乗らず其処に残っている姿が過ぎ去る窓外に見えた。今思うにこれほど行動を「覚えている」ということは私には気になった存在だったのだろう。観光シーズンのピークは過ぎていたが電車内は次の場所を確認する為に地図を広げた人が目についた。
後に私たちはこの二枚のトラム内の写真を探偵の目で見ることになる。
丘の上、国旗が翻るサン・ジョルジェ城が見えるこの場所でパートナーは悲嘆にくれることになる。挙動不審。気が動転というよりは「まさか」を十乗にも百乗にもしたように我に降りかかったことを信じたくないが認めざるを得ない表情・行動だった。
前ポケット深くに入っていた財布を盗まれる。前ポケットに確かに入れたのであればバッグの中を敢えて探す必要はないのだが、万が一の思い違いを期待したのだろう荷物の全てを探す。
多分、あの意味不明な行動を取っていたトラム乗り場に居た男性らグループに盗まれたのだと今にして振り返る。
二人して先ずは落としたのか?とサン・ジョルジェ城の行動を思い起こすが、今更城に戻っても確実に落とした場所が解る状況ではない為、意味は無いだろうと諦める。紛失物届もそれ以上に期待できない。
普段の慎重なパートナーの行動からは想像出来ないのだが運転免許証、カード一式日本で使っているまま持ってきた愚かさ。まして中に300ユーロも入れるとは考えられない。私は被害を最小限に留めたく、お財布自体も変え、中にはクレジットカード1枚に100ユーロのみを旅行中の常とした。よくあることだがパートナーも財布の中身も大切だがプレゼントだった財布自体を盗まれたことが辛かったらしい。
まだ、午後に入ったばかりの時間であった為、この重い気分は辛かった。財布のことを触れても何も解決も進展も見込めないため、盗まれた件には触れず動こうとするが観光どころではないことに変わりはない。