「今さら言えない小さな秘密」
原題:Raoul Taburin
監督:ピエール・ゴドー
製作国:フランス
製作年・上映時間:2018年 90min
キャスト:ブノワ・ポールブールド、スザンヌ・クレマン、エドゥアール・ベア
邦題は説明過多、この村のルールを考えると原題に主人公の名がそのまま使われていることはとても自然なこと。
秘密は抱える人にとって小さな、場合によっては大きな存在にもなる。更に抱え過ぎると元は小さな秘密にも利子が付き引き返せなくなる大きさに育ち、容易には悩み困惑からは解放されない。
南仏プロヴァンスの村に暮らす自転車修理工ラウルは妻と子供たちに囲まれこの上ない穏やかなしあわせに包まれた日を送っている。しかし、職業上「勝手に」致命傷と思い込んでいる自転車に乗れないという秘密を時限爆弾のように抱え続けていた。
作品は、この秘密にまつわる原作絵本のまま、またカラー作品ではあるがモノクロ作品のようなゆったりとした時間が全体に流れていた。
観光客も訪れることが少ないかもしれない小さな村。村の日常は事件に振り回されることもなく日々を充足して送ることが一番の目的のような、そう御伽の世界そのまま(*そもそもはおとぎ話の映画化ではある)。只、Le Tour de France(ツールドフランス)が実施されるお国柄自転車に乗ることが出来ないことは肩身が狭いところは生じる可能性はある。
写真家エルヴェが村人を撮りたいと現れなかったなら、ラウルは秘密を最後まで守ったかもしれない。
自転車に乗ることができない、これだけで作品が出来上がる見事さ。
流れのまま行くのだろうと観ていると、不意に気になるショットが現れる、台詞に引き込まれる。
『アメリ』『ロング・エンゲージメント』のジャン=ピエール・ジュネ監督作品のブレインとして活躍してきたギヨーム・ローランが原作者サンペと共に脚本を担当、となるとこの作品の醸す世界に大きく納得する。
作品を観ている間中、これまで旅行で歩いたヨーロッパの街並みを懐かしく思い出した。それはシチリアのシラクーサだったり、ハンガリーのショプロン、ポルトガルのエヴォラだったりと国は違うのだが、石造りの街の午後が濃密に思い出され心地よかった。
「アメリ」をお好きな方なら、きっとこの作品を楽しめます。
★★★