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「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」

原題:High & Low - John Galliano
監督:ケビン・マクドナルド
製作国:イギリス
製作年・上映時間:2023年 116分
キャスト:ジョン・ガリアーノ、ケイト・モス、シドニー・トレダノ、ナオミ・キャンベル、ペネロペ・クルス、シャーリーズ・セロン、アナ・ウィンター、エドワード・エニンフル、ベルナール・アルノー

「2011年、ショッキングなニュースが瞬く間に全世界へと流れた。クリスチャン・ディオールのデザイナーとして活躍していたジョン・ガリアーノが逮捕されたのだ。ジョン・ガリアーノは1995年ジバンシィ、1996年クリスチャン・ディオールと、世界的ブランドのデザイナーに次々と抜擢され、ファッション界の至宝と称えられた“ファッション界の革命児”。しかし、絶頂期だった2011年2月、反ユダヤ主義的暴言を吐く動画が拡散、その後有罪となり、ブランドから解雇され、文字通り“すべて”を失くした。

ガリアーノの世紀の転落を描くために、カメラはまずその眩しいほどのサクセスストーリーを追いかける。1984年、ロンドンのセントマーチンズ美術学校での革新的な卒業制作のショーが大評判となり、ガリアーノは一夜でロンドンファッション界の寵児となった。その後、LVMHの会長兼CEOにして“上流階級”の君主ベルナール・アルノーと契約を結び、夢への階段をのぼっていく。

事件から13年たった今、ガリアーノ本人がカメラの前に座り、「洗いざらい話す」と語る、ドキュメンタリー映画が完成した。『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』でアカデミー賞®長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したケヴィン・マクドナルド監督が、ジョン・ガリアーノの人間性にも鋭く踏み込む。そして、本作最大のミステリー「彼の暴言の背景には何があったのか?」に斬りこんでいく。」*公式ホームページより

2011年1月24日、フランスのパリにあるロダン美術館で行われたディオールのオートクチュールショーでランウェイを歩く。これが同ファッションハウスのクリエイティブ・ディレクターとしての最後の出演

 作品冒頭ショットは、ジョン・ガリアーノがカフェ「ペルル」に座り明らかに酩酊し、ディオールのファッションデザイナーとしての彼の輝かしいキャリア強制終了に追い込み、彼のキャリア全体を抹殺したかのような反ユダヤ主義のスラングを暴言しているところから始まる。
 しかし、監督は「私は『まあ、彼が反ユダヤ主義者かどうかは分かりません。多分そうではないでしょう。でも、私たちは彼を理解しようと努力すべきではないでしょうか、そしてそれがどこから来たのかを見極めようと努力すべきではないでしょうか』と CNN のインタビューに答えている。
 また、「私は道徳的な曖昧さや複雑な登場人物に嫌悪感を抱いたりはしません。そして、それが私がジョンに興味を持った理由です。簡単な答えはないのです。」とも。
 ジョン・ガリアーノの人種差別暴言の映像が間違いなく物語の中心となっているが、ケビン・マクドナルド監督は「これはキャンセル・カルチャーについての映画ではない」と主張している。

 実際に作品を観ていくとこの監督の姿勢が伝わる。だからこそ、邦題の「世界一愚かな」が理解出来ない。例えば、身内を愚息と表現するような温かみをそこには感じられない。

美に関する全てを纏う

 ガリアーノはロンドンの労働者階級出身。セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインのモード科を首席で卒業し才能を開花させる。最初の赤字のコレクションで大物デザイナーの支持を集めた後、ジバンシィでの短期間の気概の試しを経て、ディオールのチーフデザイナーに任命される。これは並外れた業績だった。ガリアーノはシャルル・フレデリック・ウォルトが1858年におそらくハイファッション業界を始めて以来、フランスでオートクチュールの職に就いた最初のイギリス人とも言われている。

2005年パリで行われたディオールのショーでのガリアーノ氏。二角帽子をかぶったナポレオン風のルックスなどさまざまな外見の人物を演じた

 ファッションデザイナーが描かれた作品を観る度に、これはファッションという括りではなく芸術ではないかと考えてしまう。芸術作品と言われる一般的な絵画や彫刻とは異なって、ファッションとして出来上がった作品はとても速いスパンの中で展開され消費されていく
 この制作と消費のあまりのアンバランスにデザイナーは過労死に追い込まれている。アレキサンダー・マックイーン氏も人生に早く幕を下ろした。

 ガリアーノも「私はゆっくりと自殺していた」とドキュメンタリーの中で認めている。「ただ永遠に眠りたかっただけ」と。

 ガリアーノの幼少期から描かれ、彼を形作っていった後天的な環境が彼に影響を及ぼしていたことも静かに作品全体を通して伝わっていく。
 彼が暴言への謝罪に時間を費やし、自身の心身を立て直すことが出来たのは本当に幸い。生きていらして、よかった。

★★★★
 

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