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スーパーCFOはいない?CFOに多くを求めすぎ問題について

「今日はずっと室内でミーティングしていて」

「じゃあ、夜景でも観ながらリラックスしたらどうですか」

「変わった柄のシャツを着た店長、少しおしゃべりですけどね」

品川インターシティを南に下った、京浜運河を望む倉庫街にひっそりと佇むBARアバントには、毎週金曜日の夜になると常連が集まり、喧騒につつまれます。

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バーテンダー:森川さん、いらっしゃい。

森川:今週もいろいろあったけど、オリンピック観た?

バーテンダー:観ましたよ。13歳のもみじちゃん※1すごかったですね。

森川:2時間ドラマの女王からスケボーなんてすごいよね。

バーテンダー:それは山村もみじ※2。そちらは山村美紗の娘で、還暦。しかも元マルサ、国税専門官だからな。森川さん、オリンピックの話がしたかったんじゃなかったの?

森川さんは「経営情報の大衆化」をミッションにしているアバントという企業グループの社長さん。決して2時間ドラマのプロデューサーではありません。

バーテンダーのモギーが「もみじネタのボケ」にすぐにツッコんでくれたので、いきなり盛り上がっているようです。

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森川:うちの統合報告書※3のマンガ、お客さんに薦めてくれてる?

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起業までのストーリーはこちら)

ーーもちろんです。森川さんが酒を飲んで親父さんと喧嘩ばかりしてたって評判ですよ。

森川:やっぱりそうか。

ーーあと、『集団左遷』の柴田恭兵に似てるとも言っておきました。

森川:この報告書のなかで、ぜひ読んでもらいたい部分はここ。39ページからの「アバントグループの財務戦略」だよ。

ーー真面目に言っていますか?

森川:もちろん。

ーー興味ないですよ。だって、この「CFO」っていう言葉がまずわかんないっすよ。

森川:これはね、「チーフ・ファイナンシャル・オフィサー」の略。企業の財務戦略のトップで会社の運命を決める大事な人材なんだよ。

ーーなるほど、サッカーにおけるセンターフォワードみたいなもんですね。

森川:CFだけだろ、あってるの。

ーーまあいいじゃないっすか。ところで、その「CFO」と財務戦略のことで、なにか話したいことがあるんじゃないですか?

森川:そうなんだよ。何回も話している、「企業価値の向上」って、当然ファイナンスの知識がすごく重要なんだけど、事業が主役だよね。

製造業なら「何を作っていくのか」、サービス業なら「顧客にとっての価値をどうつくるか」、それに会社の目的、パーパスという前回話した概念も「企業価値の向上」に深くつながってる。

そこでいうと、うちは「社員をハッピーにする」というのが会社の目的。それを実現するために、どういう事業を作っていくか、どういったオペレーションをしていくのかということを全部つなげてやっていくわけ。

そこがちゃんとあった上で、「企業価値向上」につながる、いくつかある要素のひとつとしてファイナンスがある。これをどこまで使いこなすのか。

事業をやってきている人間、俺のようにソフトウェアという「ものづくり」の観点から言うと、1円1銭っていうのを一生懸命積み上げていくビジネスをやっている一方で、ファイナンスって100万円が1円くらいの感覚でね。そこに対して最初はすごく違和感を持っていた。

ーー100万円が1円くらいの感覚ですか!そりゃ、違和感ありますね。

森川:ところが、上場企業の世界では、要はもう会社に値段を付けちゃっているわけだから、会社を売っているわけ。それがファイナンスの世界。そうなっている以上、そこの仕組み、ルールを理解してやっていかないと、箸にも棒にもかからなくなっちゃう。

日本企業のROEが依然として米国企業のROEと比べて見劣りしてしまうのは、そのリアリティがないからだと思うんだ。

やっぱり経営者が、1円1銭を大切にして事業を進めながらも、一方で100万円という投資を活かす経営をする。この両方を理解して、ひとりで両方できるという人はやっぱり少ないんだよ。

それを役割分担しながら、専門性をかけ合わせてちゃんと両輪で回して行こうっていうときに、CFOに全部を求めてしまっている。

ーー事業と財務戦略を両方やることが無理ゲーということですか。センターバックの吉田麻也※4にセンターフォワードもやれって言うようなもんですね。

森川:そうそう、柱谷哲二※5にセンターフォワードをやれっていうようなもん。

ーーなんで古く言い換えるんですか。オリンピックネタを振ってきたのは森川さんでしょ。

森川:だってわかりやすいかと思って。それで今、CFOの役割をことさら大きくしていく風潮に違和感があるんだよね。存在し得ないものを追い求めてる感じ。

本当に重要なのは、経営陣がみなファイナンス・リテラシーを持たなければいけないだけであって、CFOだけに任せることは無理がある。それをCFOだけに求めていくっていうこと自体がおかしいんじゃないのっていう。

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ーー森川さんもなにかやってみたんですか?

森川:やってみた。それがうまくいかなかったんだよ。それまではCEOの下にCFOの組織を置いていたんだけど、並列にして、CEOラインとCFOラインに分けて、うまくコントローラーとして機能させようとしたんだけどね。

CFOって「企業価値の向上」のためにプランを作って、市場と対話をしながら資金調達していく役割がある。

その一方で財務的な観点で事業の状況をモニターして、コントロールする。ここを一体にしようということで、全部寄せたんだよ。

でも、事業をコントロールするのは難しい。CFOがコントロールし始めると、CFOが事業側になっちゃう。これが人間の性なのかも。むしろ事業側が言っている数字を一歩引いて読み込みながら、投資家目線で情報の精度を上げていくことにフォーカスすると機能する。

事業側として、もっとコスト下げろとか、もっと売上をあげろとか、そういったような牽制をCFOラインでやるっていうのは両立しないんだなっていうのがだんだんわかってきて。CFOと話しながら、これ間違っているよねって話になった(笑)

そもそも違う能力で、それぞれ高い能力が必要な部分を、一つに押し込めようとしていたんだよ。だから、今は逆にCFO自体を分解していくことにして。本質的なCFOの役割は「財務で戦略に貢献する」こと。

戦略に特化してマーケットと対話をしながら、内部を軌道修正していくところを担当してもらってる。だから世間でいわれるところの「スーパーCFO」に求められている能力が実際にはあり得ないものじゃないかと考えるに至ったっていうのがある。

ーー僕も自分の欲望をディフェンスできませんから、CFOには難しいと思います。

森川:なんの欲望だよ。ところで、さっきからサッカーに例えてるけど、実は経理とか財務とかの管理部門は、セカンドラインとか第2のディフェンスラインって言われてるんだよ。

ーーセカンドライン? じゃあ、吉田麻也じゃなくて、久保建英※6じゃないですか。

森川:そうそう、北澤豪※7ね。中盤のダイナモね。

ーーだから、なぜオリンピックから話題をそらすんですか。


アバントの統合報告書が気になった方はコチラからダウンロードしてください。森川が経営を志すきっかけが熱く描かれています。
https://www.avantcorp.com/ir/integratedreport2020/

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京浜運河を望むBARアバントで「ドーハの悲劇」について涙ながらに語っている男がいたら、それは森川かもしれません。「組織におけるCFOの最適な役割を定義すること」は遠く、厳しい道のりです。いつか約束の地にたどりつくことを祈って。『BARアバントの夜』隔週金曜日更新です。
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※1:ここでいう「もみじちゃん」は史上最年少の13歳で金メダルを取った西矢椛さんのこと。大阪府松原市出身、身長155センチ。21世紀生まれの女性のはじめての金メダリストでもある。

※2:山村紅葉は推理作家の山村美紗の長女。早稲田大学卒業後、国税専門官(マルサ)として働いていたが、結婚を期に退職。2時間ドラマの女王となる。

※3:アバントの統合報告書には、創業者の森川の青春、なぜ経営の道を志したかを描いたマンガが掲載されているほか、グループ会社や経営陣と森川の対話がたくさん掲載されている。https://www.avantcorp.com/ir/integratedreport2020/

※4:吉田麻也は押しも押されもせぬサッカー日本代表のセンターバック。イタリアセリエA、サンプドリア所属の32歳。オリンピックにはオーバーエイジ枠で招集され大活躍している。

※5:柱谷哲二は「ドーハの悲劇」でワールドカップ出場を逃したオフトジャパンのキャプテン。読売ベルディや日本代表のセンターバックとして活躍した。

※6:久保建英は2001年生まれの20歳。リーガ・エスパニョーラのレアル・マドリード所属の攻撃的ミッドフィルダー。東京オリンピック2020で、日本代表が予選リーグを突破する原動力となった。決勝トーナメントでも期待してます。

※7:北澤豪はオフトジャパン、岡田ジャパンの攻撃的ミッドフィルダー。旺盛な闘志と豊富な運動量を誇るプレースタイルから、中盤の“ダイナモ”と称された。四ツ木駅前には足型レリーフが設置されている。

語り手 株式会社アバント 代表取締役社長 グループCEO 森川 徹治
編集協力/コルクラボギルド(文・角野信彦、編集・頼母木俊輔)

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