彼はなぜ「政治家のモノマネ」を選んだのか|麻タロウ
みなさんは『麻タロウ』をご存知だろうか?
彼(本名:山田隆太)は麻生太郎や安倍晋三など政治家のモノマネでSNSで瞬く間に話題を集めている。まずはともかくこの動画を見て欲しい。
今日はそんな彼がどんな人間なのか、そして表現したいことについて迫っていきたい。
麻タロウが生まれたとき
彼は今、大学に通う弱冠・20歳。小学生の時から学校の先生のモノマネをするなど、クラスに一人はいるひょうきんで周りから愛されるキャラだ。
そんな彼がなぜ"政治家のモノマネ"をはじめたのかを探っていくと高校・浪人時代の原体験がターニングポイントになっている。
彼の通う高校ではある特徴的な取り組みがあった。それが生徒会であり、任期である半年間に一度、全校生徒で選挙が行われていた。
その選挙では有効票の中で過半数の票を取らないと当選と認められず、麻タロウが入学した当時は3期も生徒会が存在しない状態だった。
生徒会がなければ学校のルールである生徒会規約を改善したり、新しいルールを作ることもできない。そんな中で麻タロウが生徒会長に立候補した。
生徒会選挙の前には候補者演説が講堂で行われるが、与えられる時間はなんと1分間。
他の候補者が「部活動の時間を伸ばそう」や「アイスクリーム自販機の設置しよう」などわかりやすい主張をする中で麻タロウは意外な訴えかけをした。
「食堂の食券機を変えませんか?」
その当時、食堂は食券制だったが、なぜか食券機に500円玉を入れると詰まってしまうというトラブルが頻繁に起こっていた。その度に食堂のおばちゃんが機械を開けたり、500円玉しか持っていない時は食券を買わずに手渡しで対応してもらうなど不便さがそこにはあったが、その不便を訴える人はいなかった。
目から鱗の提案に全校生徒が注目をした。
そして、過半数の票をどうしたら取れるかと考えた時にある課題に気づいていた。それは「3年生の白票が多い問題」だ。
これには理由があって、受験勉強に集中できるようにということから生徒会長は原則、2年生までしかできないルールになっていた。でも、そうなるとやはり3年生に向けたマニフェストは出づらくなり、結果として「私たちは関係ないから」と白票で投票するひとが多かった。
それを知った麻タロウは3年生に向けた政策を打ち出す。
「自習室に3年生の優先座席をつくりませんか?」
その学校では全校生徒が利用できる自習室があったのだが、全席自由席だからこそ受験勉強で必死に勉強する3年生の横で1年生が居眠りしているといったことが起きていて3年生のモチベーションが低下する場面がよくあったそう。
そこで3年生の優先スペースを設けることで、集中できる環境を整えると同時に、同期の頑張る姿が嫌でも目に入ってくるのでモチベーションもあがるのでは?という提案だった。
それを麻タロウは自分で語るよりも当事者である3年生に語ってもらうのが一番だと考え、3年生に応援演説をしてもらった。
1分の中でその3年生に与えられた時間は"たった10秒"だったがその10秒が3年生の心と票を動かした。
その結果、新人ながら過半数を獲得して当選、生徒会長となった。
そんな彼は生徒会長になってから、まさしく「校内政治」を身を持って体感していた。
食券機を変えるマニフェストの他にも日々の取り組みを発信しないとすぐに「サボってんじゃないか?」という声があがる。しかし、ただただ動けばいいというものではない。地域のボランティアなどに参加しても生徒たちの声を聞いたことにはならないし、そこで信頼が生まれることはない。
そこで麻タロウは生徒と先生の間に立って様々な課題を共有し、そのプロセスをまとめた生徒会新聞を発行してその中で取り組みを伝えるようにした。
この時から政治家・麻タロウが産声をあげていた。
生徒会長として立ち向かう壁
そんな中で現職として迎えた2期目の選挙。
今回の「麻タロウのマニフェストは何なんだ?」と期待する声もあって、選挙自体がお祭りのようなワクワク感があった。
そんなことから生徒たちの間で「選挙」という呼び方ではなく、お笑いコンテストになぞらえて「M-1」と呼びはじめるようになった。
「トイレのハンドソープを変えませんか?」
2期目を目指すスピーチでも麻タロウは独特な提案をした。
学校のトイレにあるハンドソープは原液を薄めているということはその学校内ではみんなが知っていることだった。
それは決して節約のためではなく、原液のままだと手が荒れてしまう人がいるから意図的に薄めていたものだった。しかし、薄いからこそみんなが何プッシュもすることですぐに空になってしまうので苦情があがったり、それを防ぐために「何プッシュもしないでください」といった注意書きまで貼り付けられていた。
正当な理由があるからこそみんなが我慢していたがそこに疑問をもった麻タロウが「原液のままでも手が荒れないハンドソープにしよう」と声をあげたことに皆が賛同し、またも当選。
この頃には生徒会の各役職に「〇〇大臣」と名付けたりと、より政治を意識するようになっていった。
こうした経験が麻タロウの原型をつくっている。
浪人時代の"1つのモノマネ"で変わった世界
そんな山田くんが「麻タロウ」として世に出ることになるキッカケは不意に訪れる。
当時、大学進学を目指し、浪人して予備校に通う時、親友が海外に飛び立つということで応援メッセージを麻生さん・安倍さんのモノマネで送った。
そのモノマネを受け取った親友が「これはおもしろい!」とTikTokに動画をあげると多くの人に拡散され、一夜にしてフォロワーが200人から3,000人に増えた。
政治家は興味があるかどうかはさておいて、みんながなんとなく知ってる存在だからこそやってみたらおもしろいんじゃないかと思ってはいたが、ここまで反応があるとは思わなかった。
また、予備校で勉強合宿があった時にも大きなチャンスが巡ってくる。
当時、麻タロウは一番ランクの低いクラスで最下位を取ってしまうくらい英語が苦手だった。そこで先生と話して次に最下位になったら罰ゲームとしてみんなの前でモノマネを披露しようという話になった。
麻タロウは一生懸命に勉強を頑張って、なんとか最下位を脱することができた。けど、ひょうきんな彼は勉強をしながら「みんなの前でネタをしたいな」という気持ちが高まり、先生にネタをさせてくれと逆直訴する。
そしてクラスのみんなの前でネタを披露する時、教室がやけに賑やかだったこともあり、合宿を統括している先生が入ってきた。緊張が走ったがネタを続けるとその先生から絶賛され、合宿の最後に全生徒の前でネタをすることになった。
この2つの出来事から麻タロウとしての活動が始まった。
麻タロウとしてのこだわり
彼のモノマネを見ていると、録画したようなただの言葉や動作の繰り返しではなく、その場に合わせたメッセージを言っていることがわかる。
「モノマネではなく、その人の思想を吸収するんですよ」
と麻タロウは私たちに語ってくれた。
麻生さんや安倍さんの動画を見ているときに、何を言ってるかよりもどんなことを考えているのかを考えるようにすることで「この人ならこんなことを言いそうだな」というのが思い浮かぶようになる。それを話しているからその場にあったことが言えるのだそう。また、
「好きなことになったら"研究してる"って感覚はないですね」
とも語ってくれた。おもしろいし、好きだからこそ夢中になれている自分がいる。夢中だからこそ、またモノマネが上手くなれる。そんな好循環が巡っているのと同時に、ピュアでまっすぐな山田隆太としての人間性も垣間見れた。
麻タロウ インタビュー vol.2『いま、思うこと。|麻タロウ』に続く