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大切なもの~谷川俊太郎ネロ~

大切なものをひとつなくしました。
プロフィール画像の愛犬です。
我が家に来たときは、まだ手のひらにのるぐらい小さかったのが、
5kgぐらいになり、いつも散歩に出かけるまえに、抱えるとずっしりくるようになりました。
仕事に出かけるときは、行くなと吠えてくれました
仕事から帰ると、お帰りと吠えてくれました。
11年間、本当にありがとう。

人は必ず死にます。いつ死ぬかわかりません。生き物も皆同じです。
いつも夜食をあげるとき、
大喜びでしっぽをふり部屋中を回転していました。
昨日もそうでした。
いつもの日常、今を生きていました。

「ネロー愛された小さな犬に」 谷川俊太郎

ネロ
もうじき又夏がやってくる
お前の舌
お前の眼(め)
お前の昼寝姿が
今はっきりと僕の前によみがえる
お前はたった二回程夏を知っただけだった
僕はもう十八回の夏を知っている
そして今僕は又自分のではないろいろの夏を思い出している
メゾンラフィットの夏
淀の夏
ウイリアムスバーク橋の夏
オランの夏
そして僕は考える
人間はいったいもう何回の夏を知っているのだろうと
ネロ
もいじき又夏がやってくる
しかしそれはお前のいた夏ではない
又別の夏
全く別の夏なのだ
新しい夏がやってくる
そして新しいいりいろのことを僕は知ってゆく
美しいこと みにくいこと 僕を元気づけてくれるようなこと 僕をかなしくさせるようなこと
そして僕は質問する
いったい何だろう
いったい何故だろう
いったいどうすべきなのだろう
ネロ
お前は死んだ
誰にも知られないようにひとりで遠くに行って
お前の声
お前の感触
お前の気持ちまでもが
今はっきりと僕の前によみがえる
しかしネロ
もうじき又夏がやってくる
そして
僕はやっぱり歩いてゆくだろう
新しい夏をむかえ 秋をむかえ 冬をむかえ
春をむかえ 更に新しい夏を期待して
すべての新しいことを知るために
そして
すべての僕の質問に自ら答えるために

詩集『二十億光年の孤独』谷川俊太郎

この詩は谷川俊太郎さんが18歳のときの詩です。
谷川俊太郎さんの最初の詩集『二十億光年の孤独』が刊行されたのは1952年72年前です。
今も瑞々しく心をうちます。

11年一緒の夏を過ごした我が家の愛犬
今も心の中でずーとそばにいます。
来年の夏も又空を見上げよう。
あと何年かはわからないけど、一緒に新しいことを知っていこう。

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