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「あれかこれか」でなく「あれもこれも」~TBSドラマ「御上先生」松坂桃季主演を観て~野中郁次郎先生

御上先生の教え
俳優松坂桃季主演のTBS日曜劇場「御上先生」はいろいろ勉強になります。
このドラマの中で、松坂桃季さんが吉岡里帆さんに「金八先生にあこがれてはいたが、生徒のために奔走するスーパー熱血教師がこの40年理想の教師像をつくってしまった」のようなことを語るシーンがあります。
さらに学校も官僚も驚くほど前例主義、今の教育に必要なのはバージョンアップではなくリビルド(再構築)だとも言います。
金八先生と同様に御上先生の授業には教えられるものがあります。


ハゲワシと少女

ある授業中に御上先生が「ハゲワシと少女」の写真を見せます。
この写真には、飢餓で衰弱した少女と、その後ろで様子をうかがうハゲワシが写っています。
カメラマンはケビン・カッターさんでこの写真でピュリッツァー賞を受賞しました。
報道における究極の選択というテーマで語られ、道徳の授業にも使われます。
1994年ニューヨークタイムズにこの写真が掲載されると、その反響が大きく、またそのほとんどが「なぜカメラマンは少女をたすけなかったか」というものでした。
世界中からパッシングを受けたカッターさんはピュリッツァー賞の受賞後自殺を図りました。
写真の撮られた場所は、当時内戦が続くスーダンで、カッターさんはアヨドという村を訪れ、そこで毎日何人も死んでいく子供たちを見たそうです。
実際には、この写真の横には少女の母親もいて、ハゲワシは写真が撮られた後いなくなりました。(ハゲワシは死んだ動物を食べる鳥であり、生きた人を襲うことはないとされています。)
カッターさんは、ハゲワシが去ったあと、蹲り泣き崩れたそうです。

この写真がスーダンの惨状を世界に伝えたのは事実です。

このドラマで語られているのは、写真の究極の選択ということではなく、その後のカッターさんへの批判報道についてです。
正確な事実を語らずにあるいは知りもしないのに批判だけが大きくなる問題を提起しています。

バタフライエフェクト

また、バタフライエフェクトについても語られます。
バタフライエフェクトとは、バタフライは蝶です。エフェクトは効果、影響を指します。
「ブラジルで蝶が羽ばたくとテキサスで竜巻が起こる」というたとえで気象学者のエドワード・ローレンツが提唱したものです。
小さな変化(蝶の羽ばたき)が、時間がたつにつれてどんどん影響を拡げて、大きな結果(竜巻)を生むかもしれないという考えです。
これはカオス理論というもので、カオスとは「ごちゃごちゃ」「混沌」「無秩序」を表す意味ですが、カオス理論は、一見するとバラバラで予測不能に見える現象の中にも、実は隠れた法則があることを研究する理論です。カオス力学ともいいます。
一方対比される力学はニュートン力学で、自然現象は時間の経過に従って変化していくものとする理論です。

簡単に言うと、カオス力学は「予測が難しい世界」でニュートン力学は「予測できる世界」という違いです。
カオス理論は、法則はあるがほんのわずかな違いで未来は大きく変わるとされます。
例えば、天気予報は風の流れや気温が少しずれると、数日後の天気がまったく違ってきたりします。短期的に予測はできても長期予測は難しいとされます。
ニュートン力学では、物体の動きは法則に従って予測できるとされます。
例えば、ボールを投げるとき速度や角度が分かれば、どこに落ちるか計算できます。
どちらも法則に従っていることに変わりはありませんが、ニュートン力学はシンプルな未来を正確に予測できるのに対して、カオス理論は複雑な世界の予測は難しいことを示しています。

バタフライエフェクトは非常に小さな出来事が最終的に予想もしていなかったような大きな出来事に繋がることを意味します。
ことわざで「風が吹けば桶屋が儲かる」に通じるものがあります。

ドラマ「御上先生」では、ある出来事が大きな出来事に繋がっているのを解明していく展開が期待されます。

「あれかこれか」ではなく「あれもこれも」

ここからはドラマとは関係がないのですが、松坂桃季さんのCM(ダイワハウス)で、ある森の中で顔や服を泥まみれにして、歩きながらスマホで話をしているシーンがあります。
そこで松坂さんは「世の中は単純じゃないからこそ二者択一で物事を決めるのではなく、その間のちょうどいいところがある」と言います。
また、電車の操車場のようなところを駆け回りながら、「物事にはどちらかに偏らない絶妙なバランスが存在する、偏った方向に結論付けるのではなく、柔軟な考え方をするように」と諭すシーンが印象に残ります。

このCMに通じる理論があります。

野中郁次郎先生追悼


先日1月25日に野中郁次郎先生がお亡くなりになりました。
1935年生まれの89歳でした。
ビジネスマンにとってのバイブルのような「失敗の本質」を著されたのが
1984年です。以来SEKIモデルや知識創造経営など40年に渡り新しい経営手法を常に提示し続けられました。
最近の著書は「二項動態経営」で、直面するさまざまな矛盾やジレンマを「あれかこれか」の二項対立で切り分けるのではなく、
苦しくとも「あれもこれも」の二項動態を実践することが、過去の自分を超えていくただひとつの道であると説かれています。

またバタフライエフェクトの話に戻りますが、この話で思い浮かんだのは「ヒトデを海に戻す」寓話です。米国の作家ローレン・アイズリーの随筆が元になって研修などでよく紹介される話です。

星を投げる人

ある朝、老人が海辺を散歩していると、無数のヒトデが海岸沿いに打ち上げられていました。
そこに、一人の少年がなにやらヒトデを一つ一つ拾っては海に投げています。
老人が「何をしてるんじゃ」と尋ねると、少年は「太陽が昇るまでに海に返してあげないと死んでしまうから」と答えます。
「でも見てごらん、何千というヒトデが打ち上げられている、一つ二つ返したところで意味ないのではないか」というと「いや違うよ、このヒトデにとっては意味があるよね」と少年は答えたという話です。
たった一つのことであってもその相手にとっては大きな意味があるという教訓を語る寓話です。
ただ、私が記憶しているのは、その後この老人が、一つ一つヒトデを拾っては海に戻しだし、そして気がついたら海岸沿いにたくさんの人が皆、ヒトデを海に返している光景がひろがったという話です。

最後に

ドラマ「御上先生」について書いていて「あれもこれも」になってしまいました。
このドラマで、御上先生はバタフライエフェクトの蝶はまさか竜巻が起こるとは思ってもいなかったろうにと語ります。
悪気のない小さな出来事が、大きな問題に発展することを示唆しているのでしょうか。
私は、ヒトデの話のように、たった一人だけの小さな行動は決して無駄ではなく、いつか世界を変える力をもっている。逆にどうせ無駄だと思って何も行動しなかったら永遠に変わることはない。だからこそ無駄だと思わないで小さなことでも良いと思うことを行動しようということを教えてくれていると思っています。

やはり、
「あれかこれか」ではなく「あれもこれも」なのでしょう。



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