【ショートコント100】21→30
21.記憶喪失
病室に若い男女が二人きり。
「お見舞い来てくれて、ありがとうございました。こんな花まで、わざわざすいません。
え、敬語使ってるの変な感じしますか?でも本当に覚えてないから…
そっか、君と僕は、付き合ってたんだね。
彼氏が記憶喪失なんてショックだよね、ごめん。
よかったら、また来て。その時には何か思い出してるかも。…ありがとう。じゃあね。」
彼女、退室。
「うわああああああ!!!彼女めちゃめちゃ可愛いー!!!ラッキィイイイイイイ!!!さいこぉおおおおお!!!はあああああああ!!!ぷぉおおおおおおおおおお!!!」
父、入室。
「あ、こんにちは。すいませんあなたは僕とはどういった関係で…?
お父さんですか!?ああ、これは失礼しました。家族まで忘れちゃってるって、僕だいぶ重傷みたいですね…
え、なんですか?気晴らしに旅行?
いいですよそんな。お金もかかるだろうし。
え、ハワイの別荘?
………ちなみにお父さん今日はここまで何で来ました?運転手付きのリムジン……ああ……そうですか……
じゃあ旅行行きたいかもです。そしたら何か思い出すかもしれないし、はい是非!またお見舞い来て下さい!」
父、退室。
「うわああああああ!!!お金持ちいいいいい!!!!うおうおうおうお!ぐんぐんぐんぐんぐーん!きいいいいい!!ほっほっほっほっほっ!にぎにぎにぎぎぃいいいいいい!!!!!」
友人達10人、入室。
「なになに!?なんか人いっぱい入って来たけど!
え……ドッキリ……?
あの子彼女じゃないし家も金持ちじゃないの!?
えーなんだよ!全部嘘なのかよ!
いや普通記憶喪失の奴にドッキリ仕掛ける!?
だいぶ良くないコミュニティに属してるな俺。
親友からのドッキリどうだったって…?
いや、まずお前等を親友として認識してないから!知らねえただの超嫌な奴等!
なんかムカついて来たわ。マジでムカついて来た。おいそこの〝大成功〟ってパネル持ってる奴こっち来いよ」
馬乗りになり友人をぼこぼこに殴った後、自分の頭を抱える。
「うわああああああ!!!俺人殴る事に躊躇ないやばい奴だったーーー!!!いやあああああ!!ぐうううううううう!!!げれげれげれげれげれ!!!ぺげげげげげげげげ!!!あと感情表現独特ーー!!!!!!」
22.工作
「見てー!夏休みの工作の宿題、トイレットペーパーの芯30個使ってロボット兵作ったんだ!」
「30個…?お前んち夏の間だけでケツ拭き過ぎだろ。お前んちうんこ大好きなんだな。きったねえ」
そこからの記憶は無い。ただロボット兵が誰かの血で真っ赤に染まっていた。
23.学級会
クラス委員が教壇に立ち、仕切り出す。
「今日は文化祭の出し物を決めます!僕は暫く風邪で学校休んじゃってたんだけど、副委員長が仕切ってくれて、昨日の時点で三つまで絞ってあるんだよな?えっと、これの裏に書いてあるのか」
ホワイトボードを裏返す。
・床屋
・美容室
・病院
「床屋、美容室、病院か!なかなか良いじゃないか!じゃあ、挙手をお願いします。床屋がいい人!美容室がいい人!病院がいい人!…全員が全部に手あげちゃうから、これは一生決まらないな。よし、サッカーしに行こう!」
ボールを持って全員校庭に飛び出して行った。
24.プロボクサー亀澤康二倒したら1000万!
「さあまたしても始まってしまいましたこの企画!素人の喧嘩自慢がプロボクサーに挑み、勝利できれば賞金1000万!前々回は川崎最強の喧嘩屋・武藤との激闘が500万再生、前回は伝説の暴走族元リーダー・鬼塚との激闘が1000万再生されました。今回もそんな激闘が繰り広げられるのでしょうか!?亀澤さん、今回の意気込みは?」
「まあどんな奴来てもぶちのめすだけじゃ」
「おお、これは楽しみだ!それではさっそく、このスタジオに挑戦者を呼び込みましょう!挑戦者入場です!!
まず一人目は…
母さんに100回キレた男!寺島ー!!
続いて…
低学年のボール奪った男!森本ー!!
続いて…
半年に一回しか、犬洗ってあげない男!小林ー!!
続いて…
休みの日ずっとゲーセンいちゃう女!坂口ー!!
続いて…
あの日さよならもありがとうも言えなかった男!大塚ー!!」
「日本のワルどもどこ行ったんじゃ!」
25.高本君と和田君3
学生服の青年二人が歩いて下校している。
高本「今日さ、森先生なんか様子おかしくなかった?」
和田「そう?ウルフはそんな事思わなかったけど」
高本「え、お前一人称ウルフにしたの?」
26.春子
『お兄ちゃん結婚して〜』
『可愛いね〜春子ちゃん。そうだね。春子ちゃんが大人になって、その時まだ僕の事好きでいてくれてたら結婚しよっか』
『えーほんと!?嬉しいー!お兄ちゃん大好き〜!』
カチャ
「ぢゃんど録音ぢでだんだからね、15年前のあの会話」
男性レスラーも顔負けの逞しいガタイに、ぎょろりとした目玉と極太の眉。若干しゃくれて、どっぷりと弛んだ顎の肉。髪型は紫のカラー坊主。
ほとんどバズライトイヤーと同じ見た目に成長した春子ちゃんが、今僕の目の前で、古いカセットテープを再生した。
「わだぢと結婚、ぢでぐれるよね…?」
「勿論だよ。ずっと僕の事好きでいてくれて、本当にありがとう」
「もう……ぞーゆーどごろが好きなのよ」
僕達はきっと、世界で一番幸せな夫婦になる。
27.カラオケ
「ねえ、賢人くん何歌うの?」
「尾崎豊のアイラブユー」
「えー!あの曲歌えるんだー!」
「莉子ちゃんへの愛を込めて、本気で歌うから、ちゃんと聞いててね…」
「うん…分かった…嬉しい…」
「アイラー……ビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「店長!なんですかこの風!!」
『臨時ニュースです。池袋カラオケ舘三階より、謎の激しい突風が!』
「ニュース見た?池袋のカラ館大破だって」
「まじで?見に行く?」
『とても危険な状況です。決して近付かないで下さい!決して!近付かないで下さい!』
28.深夜、コンビニの駐車場。
「わんわん!ご主人様早く買い物済ませて戻って来ないかな〜!寂しいな〜!」
そこに店員が近付いて来て「すいません。そこ犬用のスペースなんで、人に居られると困るんですよ」と言うと、上下茶色のスーツに首輪を付けた中年男性は黙り込んでしまった。
「あの、聞いてますか?」
「………………」
「聞いてますかっていうか、聞こえてますよね」
「………わん?」
「わんじゃなくて、うちの店そういうプレイに使わないでほしいんですよ」
「人の言葉は分からないわん!僕が分かるのは、ご主人の気持ちだけなんだわーん!」
「警察呼びますよ」
「ほんとすいません…」
「おじさん、先月も注意しましたよね?」
「覚えていらっしゃいましたか…」
「逆に忘れてもらえると思ってたんですか?」
「大変お恥ずかしい限りです…」
「なんでもいいんで、どいてもらえます?」
「それが私犬なもので、ご主人の許しが出ない限り人に戻る事も、ここを移動する事もできないんだわん…」
「なんて忠実なんですか。要はあなたのご主人って人と話す方が早いって事ですね」
「いや〜、まあそういえばそうわんですけど、ただペットの失態でご主人が注意されるっていうのはかなり不味いわん。お仕置きNo.100『頭蓋割り毒垂らし』をくらってしまいますわん…」
「よかったじゃないですか。そういうの好きなんでしょ?」
「快楽と感じられるのはNo.70までなんだわん。それ以上は医者が近くに居なきゃ死ぬわん」
「知らねえよ。とりあえずそのご主人の見た目の特徴教えてもらえます?」
「そんな、ご主人を売る様な真似できないわん!」
「う〜ん、そっか〜。…………そこに、ドブがあるじゃないですか」
「……なんの話だわん?」
「僕が犬の餌買って来て、そのドブに落としといたら、ご主人戻って来た時なんて言いますかね?」
「……きっと私に、食べろと命令するわん」
「買って来ますね」
「ロングヘアーでサングラスかけてる男だわん!」
「男かよ。ああ、あの雑誌立ち読みしてた奴か」
店員が戻って行き、中年男性は震えながら店内を見つめる。
「ああっ、ご主人が謝らされている。ああっ、頭叩かれた。…………なんか、醒めて来ちゃったな」
首輪を外して、夜空を見つめる。
「ごめんな、千恵子。…お前があの世に逝っちまってから、俺普通でいられなくなっちまったんだ。でももう、普通に戻るよ。子供の面倒もちゃんと見なきゃいけないもんな。また、家族、やり直してみるからさ、ずっと見守っててくれよ」
29.結婚式
神父が「愛を誓いますか?」と訊いたところで、ドン!と大きな音が鳴り、皆が後ろを振り返る。
式場の扉が開いていて、そこには人影が、複数。
「ハルカ!俺と来てくれ!」
「久美子!俺と来てくれ!」
「貞夫!俺と来てくれ!」
「ちよ!俺と来てくれ!」
「源助!俺と来てくれ!」
「ジョージ!俺と来てくれ!」
「安本と岡田と田代!俺と来てくれ!」
「ここの列の皆!俺と来てくれ!」
「犬飼ってる人!俺と来てくれ!」
「昨日しゃべくり見た人!俺と来てくれ!」
新郎「ええ……花嫁も両親も友達も神父も全員連れて行かれたんだけど…どうしよ……でもデカいケーキ一人で食べれるからいっか!!」
30.ユキちゃん
今日も22時過ぎまで仕事をした。心身共に燃えカスになって会社を出る。すっかり辛気臭い東京のサラリーマンに仲間入りだ。
最近地元の新潟に居た頃をよく思い出す。二度と戻っては来ない、眩しかった青春。初恋の人。思い出したってどうにもならない事。
横断歩道で信号待ちをしていると、反対側の車線で見覚えある女性がタクシーに乗り込むのが見えた。
「ユキちゃん…?」
嘘だ。あの子が東京に居る筈がない。だって、俺が連れて行こうとしても、彼女は拒んだのだから。
タクシーが走り出した。すると俺の身体も自然と走り出し、そのタクシーを追った!
何してんだ俺。追いかけてどうする。今更何を言う事がある。またやり直そうとでも言うのか?もう新しい相手がいるかもしれないのに?なんだ、どうしちゃったんだ俺。
自分を抑制しようとする言葉が頭をぐるぐると駆け巡る。しかし一向にこの身体は止まる気がしない。あのタクシーの後部座席に座る、彼女の横顔しか見えていない。
それ故にバタバタと走る俺の足が、ぐにっと何かを踏みつけた。
なんだろう、と振り向くと、そこにはオオカミがいた。どうやら俺はオオカミの尻尾を踏んでしまったらしい。
「オ!オオカミ!?うわあ!オオカミ!え!?オオカミ!え!?」
オオカミが激昂して俺を追って来る。
「ワオオオオオン!!!」
恐怖で俺の疾走は更に速度を増し、ついにはタクシーと並走し始めた!もうなんでもいい、あの子に声をかけよう!
「ユキちゃん!ユキちゃん!ユキちゃん!!」
「ワオオオオオン!!!」
「お!オオカミ!え!?オオカミ!ユキちゃん!ユキちゃんオオカミ!オオカミ!ユキちゃん!ユキちゃん!
オオカミ!オオカミユキちゃん!ユキちゃんオオカミ!オオカミ!ユキちゃん!ユキちゃんオオカミ!
ねえユキちゃん!練馬にオオカミ!凄いよ!凄い光景があるよ!こっち見て!右を向くだけで!凄い光景が見れるよ!ユキちゃん!ユキちゃんオオカミ!オオカミユキちゃん!オオカミ!ユキちゃん!
あ!こっち向いた!!…え!誰!?ユキちゃんじゃないじゃん!え、君誰!?誰!?オオカミ!?オオカミ!誰!?オオカミ誰!?誰!?
なんでオオカミいんの!?ねえ君誰!!?オオカミ!?誰!?君誰!?ユキちゃん!?オオカミ!?
なんでスマホこっち向けてんの!?動画撮らないで!!助けて!ねえ助けて!君誰!?助けて!オオカミ!
君誰!?ユキちゃん!?オオカミ!?ユキちゃん!オオカミ!君誰!?助けて!助けて!助けて!ああああ〜!ユキちゃ〜〜〜〜ん!!!!!!!!」
俺はそのまま地元まで走り続けて、ユキちゃんに会いに行く事にした。
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