Rider's Story ずっと待っていた
割引あり
バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ
武田宗徳 オートバイブックス 収録
本屋から出て、バイクのエンジンをかけようとした時だった。耕造、と俺を呼ぶ声がして振り返った。高校時代の旧友、徹だった。
「徹! こっちに帰っていたのか」
「ああ。Uターン就職だよ」
「久しぶりだな。四年間、連絡もくれずにさ」
「それは、お互い様だろ」
少しだけ、沈黙があった。高校時代の親友同士だったあの頃にあったものが、今は欠けている。お互いに気まずい雰囲気のまま卒業してしまったから、連絡を取り合うことをしなかったのかもしれない。
徹はまだ、あのことを引きずっているのだろうか。
俺は、続けて話しかけた。
「来月から社会人か」
「おう。耕造、お前もだろ?」
「そうだよ。やだよな、本当に」
徹の視線が、隣のバイクの方を向いた。
「耕造、バイクに乗っているのか」
「ああ。お前だって好きだっただろ、バイク。ホンダのクラブマンだ」
「よく乗れるな」
徹が冷たい目をして、言った。
「よく乗れるな、殺しの道具に」
語尾に力が入っているのを感じた。徹は、引きずっていた。
「つまんねえこと…言ってんなよ」
俺は精一杯反論した。言いたいことは山ほどあった。だが、口に出たのはこの一言だけだった。
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