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89年の夏⑥ 夏の記憶
1990年の夏、
サマースクールでのボランティアに戻ったとき、
僕は自分の過去と現在が交差する
感覚に包まれていた。
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台湾人のピーター、ユカ、そしてミチと共に
写真に収まったその瞬間は、
まだ見ぬ未来の重みを知らない
無邪気なものだった。
そして翌1991年、僕は再びこの特別な
夏の舞台に立つことになった。
コンコードを卒業し、
Aレベル試験の結果を待ちながら過ごす
ロンドンのYMCAの日々。
荷物をトランクルームに預け、
コンコードでの3週間に再び飛び込む準備をした。
思えば、あの場所には僕の青春が詰まっていた。
土曜日の午後、Aグループのバスが到着し、
ホールでの開校式が始まった。
部屋割りをし、男子たちを
それぞれの部屋に案内した後、
ふと視線を広場に向けたとき、
そこにいたのは――ルミだった。
思わず息を呑む。けれど、
彼女の動きは記憶の中の彼女よりも幼く、
芝生の上を無邪気に飛び跳ねる姿は
高校生というよりは、まだ少女のそれだった。
不思議に思い、参加者リストを確認すると
ルミと同じ苗字の参加者がいた
「ミドリ」という名前だった。
小学6年生。住所を見るとルミと同じだった。
彼女の妹だと気づいたとき、
どこかホッとしたような、
そして少しだけ寂しいような感覚が胸をよぎった。
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あの夏も、コンコードの時間は規則正しく流れた。
遠足、授業、校長先生のホームビジット、
遊園地での最後の思い出作り
――すべてが2年前と同じように進んでいった。
でも、どこか違う。
僕自身が、もう以前の僕ではなかったからだ。
サマースクールが終わった後の休暇中、
僕はルミに手紙を書いた。
サマースクールの様子やミドリのこと。
それをポストに投函したとき、
心の中の何かがそっと動いた気がした。
その後、大学生活が始まり、
日常が再び僕を包み込んだ。
ジュリエットとの時間がまた元に戻り、
「非日常の夏」は過去のページとして
閉じられたようだった。
だが、ルミからの手紙が届いたとき、
僕の心は再び過去に引き戻された。
薄紫色の便箋に書かれた彼女の文字は、
あの頃の彼女そのものだった。
初めての、そして結果的には最後の手紙。
それをYMCAの部屋で読みながら、
僕は涙を止めることができなかった。
その手紙を何度も何度も読み返すたびに、
胸の奥が締め付けられるようだった。
ジュリエットはそんな僕を見て呆れていたけれど、
それでも僕は手紙を手放せなかった。
「もうどうでもいいこと」と書かれたその言葉に、
僕は心の中で静かに同意した。
確かに、それはすべて過ぎたことだ。
でも、その「過ぎたこと」が、
僕の青春の一部であることもまた事実だった。
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あの手紙と写真たちは、
僕の記憶の「封印箱」にそっとしまわれた。
そしてその箱も、2016年の引っ越しで失われた。
今となっては、あの頃を思い出させてくれるのは
サユリからの手紙だけだ。
過ぎ去った時間は、もう取り戻せない。
でも、その時間が僕を作り上げた。
だからこそ、今も時折思い返す。
あの日、あの夏、そして彼女たちの笑顔を。
(おわり)
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89年はうちの奥さんの生まれた年で
グレースが生まれる10年前の年
当時18歳だった僕は14歳のルミに恋をした
年齢的にはそんなに無理はない…
でも、その関係性はグレースとの
ドタバタ劇と被るように思える点がある
僕はルミの事が好きだったけど
留学3年目の僕はまだまだイギリスに
残る予定で大学を出るまで5年もあった
1週間という限られた期間だけ
良い思い出を作れればそれで良かった
でも、想定外の邪魔が入った
別の生徒の過保護の親が、僕に好きな人が
出来たことを良く思わないというだけで
『ふーちゃんのお気に入りの子は誰?』と
聞きまわって、ルミを探し出した…という話
その後は罵詈雑言で迷惑行為を続けた
あの人は僕のことを気に入ってくれていた
彼女の娘のマユも、僕のことが好きだった
『マユの良いお兄さんでいて欲しい』という
状態を願っていたのは分かるけれども
だからと言って、意味のない邪魔をするのは…
グレースと夏に計画した1週間
大阪をベースに、神戸、京都、淡路島
への旅行… すれ違いから
『楽しく過ごせそうにない』とドタキャンになった
ルミとの誤解を解きたいと
本気で帰国を考えた時
グレースとの関係を修復したくて
大阪への移住を考えている今
僕が実際に日本に帰国したのは2000年だった
11年後であったし、それも一時帰国で
本帰国をしたのは2008年である
あの時、ルミに固執して、依存して
帰国をしていたら、全く違う人生になっていた
今、グレースに固執して、大阪移住をしたら
それはエゴからの行動な気がする
35年経っても変わらないのは
『好き』という気持ち