山に登った日
木曽駒ケ岳に登った10月初旬のこと。
人生で初めてのアルプスはロープウェイに乗って気軽に行けるつもりだったけど、やっぱり山はハードだった。
AM5時に駐車場で目が覚めると、既にバスのチケット待ちで長蛇の列。
これがみんな山に登るのかと思うと、ワクワクするような、面白いような不思議な気持ちになった
無事チケットも購入でき、数本のバスをやり過ごして乗車する。
隣になったおじさまが、初めての場所だということ、おじさまは日帰り登山だということ、すごくワクワクしているということを話してくれた。
話を聞きながら自分もすごくワクワクしていることに改めて気がつく。
30分ほど山道を揺られ、ロープウェイ乗り場へ。
やはりすごい人で、ワクワクと共にテント場は空いているのだろうか...
そんな焦りが募ってきた。
ロープウェイからの眺めは絶景だったけれど、カメラをザックの中にしまい込んでいたから写真は撮らなかった。
ロープウェイを降りた先は標高2600mの天空世界。
目の前にそびえ立つように現れた千畳敷カールに思わず、すげえ...と声を漏らしてしまった。
登山道へ向けて出発する。
360度全てが絶景で、見下ろせば駒ヶ根の景色、見上げれば千畳敷カール、そしてその間に色づいた山の植物たち。
そして目の前に現れた急登。
噂に聞く地獄坂。
登っていたのは多分30分くらいだったけれど、学生時代のマラソン大会以来のしんどさだったかもしれない。
けど振り返ればこの絶景。
そして見下ろせば最高の急登。
急登を登りきった先に現れる乗越浄土。
一番の難所を乗り越えたみなさんが、思い思いの時間を過ごしていた。
乗越浄土を出て、中岳のピークへ。
[中岳山頂]的な木の看板の前で写真を撮ろうかと思ったけど、人だかりすぎてやめた。
俺は今日テント泊しにきたんだ。
テント場が取れなかったら...そんな焦りを抱えてテント場へ向かう。
一番しんどかったあの坂を越えた後の体は、今までとは違うものになってしまったかのように軽快に足が進む。
新調した登山靴も調子がいい。
そして目の前に見えたテント場。
ガラガラだった。
若干の焦りを抱えて登ってきた僕を、まるであざ笑うかのごとく。
テント場はスッカスカだった。
そうなんせ今はまだ11時前。
受付を済ませて、設営場所を選ぶ。
なんとなく広めの場所を選んだら、思ったよりトイレが遠くなってしまったけれど、眺めはやっぱり最高だった。
お昼ご飯は600円のビールと地上から連れてきた340円のドライカレー。
まずかったら重たくても食材を持って上がろうと思って、地上で試食したらこのドライカレーにはまってしまった。
ひと段落して駒ケ岳に登る。
山頂からの眺めもすばらしくて、北アルプスも南アルプスも見えていた
御嶽山も見えていて佇まいの美しさと同時に、あれが噴火したのかと考えてしまった。
テン場へ戻り昼寝をする。
標高が高いせいか、テントの中にいても紫外線で焼けるような感覚を感じる。
涼しいのに熱い、みたいな不思議な感覚。
そしてサンセットへ。
ただひたすらに美しい眺めだった。
この景色を形容できる言葉を僕はまだ知らないけれど、来てよかった。
本当にそう思った。
夜。
若干の高山病を感じながら、追加で買ったビールを飲み、本日二度目のカレーを食べて早めの就寝。
途中頭痛で目が覚めて、ロキソニンを飲む。
朝。
5時に目が覚める。
テントを開けると宇宙のような空。
一瞬で目が覚める。
ダウンを着込み、ヘッデンをつけて駒ケ岳を登る。
少しずつ明るくなる空。
日の出を待つ特別な時間。
ここにいる全員が同じテント場で、同じ夜を過ごして、同じ景色をこうやってみていると思ったら、なんだかみんな友達のような気がしてきた。
ミニチュアみたいな、僕らの家たち。
朝ごはんはいつだってカップヌードルシーフードと決まっている。
そう、これが俺たちのラグジュアリーだから。
7時半
朝ごはんを食べたら下山する。
キャンプでは考えられないくらいの行動だけど、素晴らしい景色に出会えてもう心がお腹いっぱいだ。
昨日はあれだけの登山者がいたのに、朝早い時間の登山道は人が少なくて心地がよかった。
クライミング装備の人、今日のテント泊の人、日帰り登山の人。
それぞれの目的で山に来て、帰っていく。
山はそれをただただ受け入れてくれている。
八丁坂(地獄坂の名前らしい)
を下り切る。
昨日より少し色が増した山々と、変わらない街が眼下に見える。
景色も山も何一つ変わっていないのに、自分だけが昨日とは違うものになったような、そんな気がした。
きっとアルプスにこれるのはまた来年の暑い時期。
幸せな時間をありがとう。
また来ます。
Camera
Leica M Typ240
Summicron 50mm 3rd
COLOR-SKOPAR 35mm F2.5 PII
Captured by Shunsuke Kubota/Aurora Photography