モデレーター話法の極意

前回はFGIのしゃべりだしの良し悪しが成果を左右すると言う話をし、具体的な話法を提示した。
今回はFGIの応酬話法のやり方。自分が見た最高と思われるモデレーターさんの方法論(極意)を紹介する。
<当のモデレーターのプロファイル>
性別・年齢はおいて、人格的に「非常に丸い」印象を与える。
この人格印象が、インタビュー中の「中立」性を保証し、対象者がモデレーターを良い意味で「無視」できる、つまり、何を言っても大丈夫という雰囲気の演出に貢献していると考えられる。
極意1:自分の個性は出さない。できれば気配を消す
クライアントとの対応は自分がモデレーターであることをさり気なく主張している。具体的にはそのFGIにかける調査素材(コンセプトシート)への感想、コメントを求められた時、判断的発言はせずに「やはり、消費者にきいてみないとわかりませんね」との結論に持っていく。
クライアントと同じチームの一員だが、役割はあくまでも客観的観察者であることを決して崩さない。
物足りなさをクライアントに感じさせることが、モデレーターとしてのアドバンテージを保証しているように見えた。
クライアントとの最終ブリーフィングが終わるとそれっきりバックルームに顔を出さない。これは「以後は私のやり方でやる」との意思表示と考えられる。
極意2:クライアントと同じチームメンバーだが、特殊任務をおびている
<インタビュー前後の行動観察>
ブリーフィング後は受付にいることが多いが、受付業務は担当にまかせて、その担当と過度に親しそうなおしゃべりをしない。これは自分は主催者側の人間だが、すぐにみなさんと一緒におしゃべりする仲間です、ということを暗に表現している(対象者に伝わるかは疑問)。
モデレーター席に座ることもあるがフローを見直す(視線が下)ことはなく、対象者を静かに観察している。これは対象者に「なんか入れ込んでるなこの人、引いてしまう」という感覚を与えないためであろう。
対象者はバラバラに入室してくる。この時、特定の人とだけ会話をしない。「今日は何の座談会?」と一人に聞かれたら、「今日は◯◯についての自由な話し合いです」とそこにいる全員に向かってしゃべる。これは特定の人と親しい関係になく、だれとも同等の関係です、とのメッセージになっている。
極意3:ファーストコンタクトから対象者側の人間であるとの態度
しゃべり始めは背筋を伸ばして下を向く(フローをみる)ことなく、ゆっくりと焦らずにはっきりとしゃべる。自分の立場の紹介でも妙に卑下したり笑いを取ろうとせずに淡々と進めていた。対象者への目の配り方では、凝視せずに視線が会えばすぐに次の人に視線を移していた。
FGIが終わったら、余計なおしゃべりをせずにお礼を言って出口に誘っていた。
<モデレーションの極意>
このモデレーターさんの特徴は、「あいづちと催促のみごとな組み合わせ」にある。特にテクニックという程ではない。
対象者の発言にはほとんど「へえ、そうなんだ」と反応する。そして「それで?」と次の発言を促している。インタビューが進むと声を出さずに視線を送るだけでこのやり取りができる。モデレーターの印象・評価の発言、対象者の発言をまとめるようなことはしない。
(これは記録係りに取って対象者とモデレーターの発言がかぶらない効果ももたらす)。
「そうなんだ」は理解、同意とともにわずかな疑問の感情も含ませることができる。そこに、「それで?」と促されると自然に補足説明だったり、理由の説明が引き出せる。「それで?」を他の対象者に振ることでグループ全体の集中力を高められる。
「なぜ、どうして」などのプロービング用語は使わない。「なんで?」という質問は「チコちゃんに叱られる!」で常用されるが、「なんで?、なぜ?」は攻撃的、高圧的な表現であり、相手に不快感を感じさせることが多い。
極意4:「そうなんだ」「で?」の繰り返しがモデレーション。

 *2月13日、14日の第6期定性カレッジを開催。残席あり
 → http://www.auraebisu.co.jp/semi-book/seminar_24021314.html


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