探索型インタビュー

分析の視点でみれば、定性調査は探索的データ分析で、仮説生成的、発見型、創造性を要求される分析である。
仮説検証型は定量調査や実験のことで、強固に組み立てられた仮説・モデルを統計的検定や、モデル評価によって検証するのが分析の主目的である。
<定性調査の仮説構築>
仮説なきところにリサーチはない。定性調査であろうが仮説なしでフィールドにでると単なる見物(観察調査)やおしゃべり(インタビュー調査)になってしまう。
定性調査の仮説は定量調査のそれに比べて「ゆるい」仮説である。インタビューの進行中に「スクラップ&ビルド」するためのゆるさであり、「いいかげん」という意味はない。ゆるさはセグメントと代替案で構成されることが多い。セグメントのゆるさとは、例えばチョコ菓子がテーマのインタビューでもチョコレートの話題が出ることは容易に想定できるので、チョコにも目配りした仮説も考えておくなどである。
代替案とは仮説A案だけでなく仮説B案も考えておくことである。ただし、仮説の代替案が多すぎると、それはもう仮説ではなくなることに留意する。
ここで問題になるのがクライアントの意図との調整である。クライアントがリサーチを企画するときは、当のテーマについて相当程度「煮詰まっている」はずである。
その煮詰まった状況に「ゆるい」仮説を作りましょう、の提案はなかなか受け入れられない。クライアントを説得しようとせず、ターゲット、つまり、消費者・生活者はこう反応するのではないかという視点を持ち込んで仮説の中にやわらかい、ゆるさを持ち込む努力をする。
<探索型モデレーションをめざす>
ゆるい仮説は検証向きでないことは自明である。ゆるい仮説を検証しようとすると何回も調査(実験)する必要が出てくる。
ゆるい仮説は、発見型、仮説生成的、創造的な方法で分析する。いわゆる探索型データ分析を行う。
定性調査はデータ収集、つまり、インタビューのときから探索型であるといえる。モデレーションにも探索的と検証的があると考える。
検証型モデレーションは尋問が天啓といえ、お前が犯人との強固な仮説を強引に検証しようとするので創造や発見からは遠い。
探索型、検証型の2つはきっちり分けられるのではなく、インタビューの中で自然に使い分けられるようになる。
筆者の体験では、モデレーターが探索的モデレーションを意識した時に新しい発見やインサイトにつながることが多い印象がある。
探索的モデレーションの具体的話法は以下のようになる。
①その日テーマは曖昧にする。チョコ菓子の新製品コンセプトチェックで
 も「今日はお菓子についてどんなものをどこで買って食べているか」を
 話して もらう。と広く取る。「今、考えている新製品の案を評価して
 もらう」と宣言すると対象者の反応も狭く限定されてしまう。
②評価を取る時「好きですか、嫌いですか」という聞き方でなく「どう
 です?」とゆるく聞く。好きか・嫌いかでは、それ以外の感情反応が消
 えてしまっている。意思決定を迫るのは最後。
③プロービングらしいプロービングは避ける。「どこが好きなんですか?」
 ではなく「ふーん、これが好きなんだ」と曖昧な返答をする。
 すると、モデレーターの曖昧さに対して「エツ、ちがうの?」「この人
 わかんないの?」との疑問から自然に理由説明が引き出せる。
以上のように対象者を追い込む(仮説検証型、尋問)のではなく、どこにでも逃げられる状況を保持する。
クライアントがB案を用意していない場合でも代替案を提示できるように訓練する。
その時のコンセプトを大きく変更しないで、対象者の印象、評価を変える可能性が高い、クライアントの戦略や企業文化(生態系)に沿う、という条件を満たす代替案を提示できることめざす。

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