利他の心

マーケティングは経済学の合理的経済人を典型的消費者像として流用している。
合理的経済人は利己的に行動する特徴を持つ。我々は、消費者も利己的に行動すると考えて分析している。
<利己的経済人、利己的消費行動>
経済行動の全ての分野で、常に自己の利益・利得を最大化することを唯一の目的に、情報収集、比較・検討、意思決定・行動する利己的な人が合理的経済人である。消費行動では広く情報収集し、ブランドを比較検討し、価格とのバランスが最も良いブランドを選択し、購入する利己的行動をする。これを賢い消費者としている。
進化論では生き残って子孫をたくさん残すのが生物(DNA)の目的なので「強い者が生き残る」「生き残った(変化できた)者が強い」といった適者生存ということが言われる。ダーウィンも後に適者生存を言ったらしいが、適者生存は進化論の間違った解釈である。
<利己心と利他の心から考えるマーケティング>
生存競争の自然淘汰から生き残ったものが強い、正しいとの適者生存では「利他行動」は説明できない。社会性昆虫の生態研究から、血縁淘汰、群淘汰などの進化理論が生まれた。ここでは利己的な遺伝子が「利他行動」を取らせる。自身の子孫を残すことを犠牲にしても他の個体を助けることを利他行動といい、社会性昆虫だけでなく、我々の種(ヒト)に多くみられる。
約1万年以上前にDNAレベルの突然変異で利他行動が遺伝子に組み込まれたとの説もあるが、定説にはなっていない。
生存競争、自然淘汰、適者生存などは、合理的経済人の定義におおむね合致しそうである。
競合、競争、闘争状態にある市場のプレーヤーはより強く、速く、大きくを目的にした行動が有利になる。主流派経済学の基礎理論はこの適者生存の考え方に基づいている。ところが、主流派経済学では説明できない「不合理な経済行動」も多く、それを説明するための行動経済学が生まれた。行動経済学はマーケティングとの相性がよい。
マーケティングは利己的行動と利他行動のせめぎあいであり、利己の心と利他の心の2つを持つ存在として消費者を考えるべきであろう。
<調査対象者のインセンティブは利己的と利他的のミックス>
30年前の市場調査の調査対象者は突然の挨拶状で選ばれたことを知り、協力か拒否かの意思決定を迫られた。
利己的に考えれば「家を訪問され、2、30分の時間を取られるのにわずかな謝礼」では利益・利得の追求に反するので断るのが合理的である。ところで、挨拶状には「あなたは社会の代表です。あなたの意見が企業の意思決定に役立ちます」などの能書きがあり、社会貢献として利他の心を刺激してくる。利己の心と利他の心の両方に訴えかけてくる。
現在のネットリサーチはモニターとして登録しないと対象者になれないが、登録時のインセンティブは謝礼(ポイント)であり、社会貢献の意識、利他の心はゼロか弱い。モニター登録は、ほぼ利己的な心でなされる。
定性調査の対象者はネットリサーチのモニターに募集をかけるか、知り合いの知り合いをたどる機縁法が採用される。
謝礼は2時間で6000円~1万円なので時給と考えれば高額であるのに協力してもらうのに苦労する。そこで、利己的だけでなく利他的なインセンティブを訴求する。その時の利他性はリサーチの意義よりも「特定の個人にお願いされる」ことで実現される。
お願いされることの利他性は、ネットの匿名性よりもリアルな人間関係の中で実現される。


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