聞き出さないインタビュー
マーケティングインタビューは対象者から消費、ブランド選択の行動とその理由を聞き出すのが目的と考えてよい。
聞き出すは、引き出す、傾聴するなどと言い換えられるが、ここで、聞き出さないインタビューとして思考実験を試みる。
<聞き出すとは>
聞き出すは定性調査の専売特許のように思われるが、定量調査でもデータや集計表が語っていることを聞き出す、と言うようなメタファーが使われることがある。ビッグデータ分析はデータが語ろうとしていることを聞き出す方法と言えるかもしれない。
定性調査は聞き出す方法そのものである。対象者との会話を通じて消費者の意識、態度、評価、心理の事実を聞き出すのがインタビューである。自然な会話の中に現れ出る事実、実態は大きな氷山の一角で全体像は隠れていると考える。
この全体像を聞き出すことを「深堀り」と表現するが、文字通りひとつのことにこだわって質問を変えたり、なぜ、・どうして、と迫って深く切り込んでいく。定性調査ではこれらの作業をプロービングという。
プロービングは対象者の発言は常に不十分であり、無意識の合理化や隠蔽を含んでいるとの前提にたっている。
それらは、生活者である対象者は自分の生活に「意識的ではなく、意識させられても言語化する力は弱く、相手に伝える義理もない」という3つの困難を持つからだということでそれらを打破するためにはプロ―ビイングが必須だと考えられている。
<聞き出すための前提は何か>
聞き出すには「聞き出されるべきもの」がそこにあるという確信が必要である。
先の定量調査の例で言えば、「きれいなデータ(正規化データ)」があり、適切な分析手法があるとの条件がそろって始めてデータが語りだしてくれる。
データ分析界隈でよく言われる「ゴミをぶち込んでもゴミしか出て来ない」のである。
マーケティングインタビューでは「対象者は回答の塊を持って会場にやってくる」という間違った前提がある。
ところが対象者はフリーハンドでやってきてインタビューが始まって初めて自分の行動や意識の在り方を振り返って回答を探す。
さらに前述のように3つの困難(意識してない、表現力がない、話す動機がない)があるので黙り込んでしまう。
そこにさらに「なぜ、どうして、どこが?」聞き出そうとされると責められてる気分になって一層、頑なになる悪循環に陥る。
<聞き出さないインタビュー>
モデレーターは対象者の発言に必ず、「そうですか?」とか反応するように訓練されている。ちゃんと聞いてますよのメッセージである。
この時、ただ、発言者の顔を見てうなずくだけで何も言葉を発しない。「ちゃんと聞きました。それで次は?」のメッセージを込めた沈黙である。発言者はシステム1発言が的外れでない確信を得て、システム2を使ったよく考えた発言をするかもしれない。あるいは、何も言わないのは自分が何かトンチンカンなこと言ってるのかと不安を感じる。それでも相手が黙ってうなづいて共感を示していれば、前言につながる発言だけでなく、それまでと違ったナラティブを工夫してくれるかもしれない。こうして会話は発展し、豊になっていく。
さらにモデレーターからメタファーやアナロジーを使うことを勧められると、対象者のなかで立ち上がって来ているストーリー、ナラティブをさらに発展させることができる。この認知のネットワークを発展させられれば、システム3の記号創発システムになる。
まだ、思考実験の段階だが、聞き出さないインタビューの方法論をつめていきたい。