定性調査の基本的考え方
マーケティングリサーチは定量調査が出身母体なので定性調査も定量との比較で語られことが多い。
ただ、定性調査は定量調査から派生したものではない。定量とはステージが違う考え方を出発点にしている。それを追求していく。
<調査対象をモデルとする定性調査>
定性調査は対象をモデルと考えるのに定量調査はサンプルとする。
モデルとはそれひとつで全体を表現し、各部分と全体の関係性、連携も表現できているものである。つまり、1人の対象を観察、インタビューすることで一般的な消費者の意識、行動の典型が分析できることを前提としている。ここから、n=1分析の可能性が生まれる。
これはグループインタビューにもあてはまる。4~6人の小集団が市場そのもののモデルであるとし、各メンバーのやりとり、影響し合う状況は市場全体の動き(キャンペーン、クチコミ、購入)と仮想できる。これをミニマルマーケットが成立するという。
モデルひとり、小集団ひとつをいろいろなパラメーターを刺激する(質問)ことでモデル全体がどう動くか、どこが動くか、なぜ、何のために動くのかを観察分析する。この作業を二人目、三人目、2グループ目、3グループ目に同じように行うとモデル間、グループ間の共通と差異がはっきりし、それらを総合的に考察することで一般化されたモデル(=調査結果)が出来上がる。
この一般化モデルは平均値、中央値、最頻値、回帰などの統計的処理のない記述モデルであり、それが弱点になる場合もある。
<定性調査は対象者を選別する>
定性調査にはサンプリングという考えはない。もちろん、ランダムサンプリングもない。
対象者選びは有意抽出どころか仮説(思い込み)に基づいて行われる。〇〇のヘビーユーザーを対象者に選びたいときは、〇〇の購入頻度を聞いて多い人を選ぶ。こうして選んだモデル(対象者)にインタビューしていくと大きな齟齬に気づく瞬間がある。(毎回ではない)
〇〇のヘビーで選んだつもりが、競合の△△をもっと多く買っていたというような状況はしばしば発生する。
対象者は1個の自由人であり、我々の規定やプロファイリングを常にすり抜けるパワーを持っていることを忘れないようにしたい。
一方、定量調査の対象はサンプルであり、個々のサンプルを分析することはない。個別サンプルに注目するときは異常値や欠測値などの問題のときだけである。
予測誤差計算と予算からからサンプルサイズが決められ、定義した母集団からランダムサンプリング(無作為抽出)する。
サンプルは常にセル集団として扱われ、セル間の差(の有意性)が分析される。
<定性調査は理解をめざす>
定性調査は消費者、市場の理解をめざす。消費者がどのように市場を認知し、どう反応し、その反応が認知にどう影響するか(フィードバック)のプロセスを論理的説明することをめざす。また、消費者の生来的消費行動の特性、バイアスの一般的傾向を解明しようとする。
そのために選んだ対象者の認知、行動を全体性を保持しながら分析する。それの先に消費者(行動)の一般性を見ようとする。
定量調査はサンプルの集計値が市場全体を代表しているという前提を崩さない。500サンプルの定量調査で21%のシェアとの結果を得たらそのシェアは全体市場(母集団規定した)のシェアと考えてよいのである。