メタファープロービング
モデレーションテクニックのうち、究極と言えるのがプロービングである。
プロービングはテーマを「深堀りして」、認知内容を「聞き出す」方法であり、定性調査・マーケティングインタビューの目的そのものに迫る方法である。
<深堀りと引っ掻き回し>
どれくらいの人が買ったのかの%を確定するのが定量調査、買った理由(何故)を明らかにするのが定性調査という荒っぽい区分けを信じるとインタビューで「なぜこれを買った」「なぜ気に入った」というようなストレートなプロービングが行われる。
「なぜこれを買った?」のプローブは対象者に「買っちゃいけないのかい!」という反発を生みやすく、プローブでなく叱責、詰問になってしまう。さらに「いつ、どの店で、いくつ、いくらで、はじめてか」とプローブしたら、深堀りでなく引っ掻き回しになる。
<プロービングの方法>
プロービングは時間差を使い、「時間・空間的広がり」を促し、「関係性を意識させる」のが王道である。
モデレーターがプローブしたい瞬間でなく時間をおいて行い、過去・現在・将来を意識させ、比較・対照させ、仮定を持ち込む。
具体的には「先ほど〇〇が好きとおっしゃいましたが、いつ頃からですか、今もですか、これからも」と発言から時間をおいてプローブし、時制の広がりをプローブする。
「△△と比べたらどうですか、もし△△がもっと甘かったらどうでしょう」と比較、対照、仮定を持ち込んだプローブ話法になる。
*『マーケティングインタビュー100の法則』参照
これが深堀りして聞き出すモデレーションのプローブテクニックである。
ただ、このプロービングは対象者がすでに持っている回答・理由を引き出す、気づかせるという前提に立っている。対象者は回答・解答の塊を抱えてインタビュー会場にやってくるという我々の身勝手な前提がある。
だから、気づいてない回答に気づかせた上で対象者の言語表現能力を助ける機能が期待され、それ以上はない。
<プロービングの限界>
プロービングテクニックに使って深堀りしていってもなかなか「目的」にたどり着けず欲求不満がつのる場面が多い。
我々の「対象者は真の理由を持っている」がそれに気づいていないか、表現できないか、その両方が原因でプローブがうまくいかないのであるとの前提そのものが間違っているかもしれない。
対象者が持っている「回答の塊」を掘り出すプローブではなく、対象者といっしょに考え出す、創造するプロービングをめざしたい。
この創造的プロービングをメタファーを使って達成したい。
<メタファーとは>
メタファーは、比喩のことで「当のものをそれとは違うドメインで似たもの似た様子を探し、それに喩えて表現する」ことである。
メタファー:比喩には以下の種類がある。
・直喩(smile) 「君の瞳は宝石のようだ」
・隠喩(metaphor) 「君の瞳は宝石だ」
・換喩(metomymy) 「鍋を食う」「黒帯=有段者」
・提喩(synecdoche)「青い目」→外人 「花」→サクラ
*山梨正明「比喩と理解」認知科学選書1988
以上の中で、プロービングで使うのは直喩と隠喩である。
換喩、提喩も使えるが対象者の表現力がそこまでに至ってない場合が多い。<メタファーは創造的思考法である>
メタファーは思考法のひとつであり、対象者を含めた我々が日常的に意識せずに使っている。
比喩は「日常の経験世界に具体的なイメージや斬新な感覚を与え、慣れ親しんだ日常の世界に対する新しい解釈を可能とする」もので「日常生活(を意識する)そのものであり、個人と社会を含めた「創造(創作)」そのものである」(山梨正明)とされる。
<メタファープロービング>
これをインタビューで使うには「なぜ」とプローブせずに「それで、、」と次なる発言を促すだけでよい場合が多い。それだけで、そのドメインでの表現に窮した対象者が別ドメインに助けを求めてメタファーを使ってくれる。さらに「何々に喩えたら、☓☓の世界だったら」と具体的メタファーを促して対象者が「◯◯のようだ」「〇〇に似ている」などと回答してら「〇〇はどんな感じ?心地よい?」などとプローブを重ねることで創造的な発言が得られる。
ただ、メタファーの表現はそのまま分析には使えない。
インタビュー目的に沿った編集・分析が必要である。
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アウラ・コキリコではビジュアルを駆使した「メタファー法インタビュー」を開発していくつか成果を上げている。