「幸福」情動起点のマーケティング

認知と消費者行動の分析だけでなく情動・感情と消費者行動の関係を分析したい。
情動マーケティングは「幸福」情動を起点とし「幸福感」を到達点とする運動の繰り返しである。
<認知から行動が起動されるだけでなく、情動が行動を起動し、認知に至るルートもある>
ブランド知名(知っているブランド)やブランドイメージ(好きなブランドとその理由)の調査は生活者の認知を測定している。
購入意向さえ、行動そのものではなく、「こうするだろう、してもいい」との現時点の認知状況からの将来の行動予測を聞いている。
一方で、CVSのレジに商品を持っていくとき、PCやスマホでポチる行動が認知状況から起動されるとは限らない。
買ったその場でインタビュー(プロトコル分析)しても「なぜそれを選んだか」の質問に答えられない、答えても「適当な理由」のことが多い。
この認知と実行動のギャップは低額の最寄り品に限らず、住宅や車などの購入場面でもしばしば観察される。
20年以上前、新築マンションの購入者インタビューで、スーパーの買物帰り、駅前の展示会場にふと立ち寄り、見学して気に入り、仮押さえして、その夜、ご主人に相談して翌日手付金を打ったという主婦がいた。
これは特殊な例ではなく、高額品の購入意思決定も認知状況にそれほど影響されず、理由なき、情動・感情による意思決定がされる。
<ブランドを認知し、比較検討し、最適な意思決定をするだけでなく、意思決定してから理由を認知するプロセスがある>
この認知と行動の起動の間のギャップを認識し、そのギャップを埋めるべく分析することは、マーケティングの重要課題である。
これは脳科学的説明も可能で、運動ニューロンが発火して数ミリ秒後、前頭葉のニューロンが発火(意識)するという研究結果がある。つまり、「あれを取ろう」と意識する前に手が伸びている、手が伸びた後で「あれを取ろう」という意識が生まれるのである。
ここから自由意志はない、我々の意思は何者かにコントロールされているというオカルトを生む必要はないが、我々の行動は意識以前に無意識によって起動される部分があることは確認しておきたい。
この意識以前の心の動きを「情動」といい、情動は、意識より(購入)行動の契機になり得るのである。
<マーケティングにおける情動は「幸福」を起動点と到達点にしたスパイラル運動である>
情動は「恐怖、怒り、悲しみ、幸福、嫌悪、驚き」の6つであるとされる(ダマシオ)。
このなかの「怒り、悲しみ、嫌悪」の不快情動はマーケティングでけんとうする必要はないであろう。
マーケティングは争いや戦争から遠く離れた平和のプロセスなのである。その情動は「幸福」に起動され、幸福感を目的にする。
マーケティングは、生産者、流通業者、消費者それぞれに驚きのある幸福をもたらす活動なのである。なかでも生活者(消費者)に
品ぞろえ、パッケージデザイン、使用感、広告・販促、価格において「幸福」感をもたらそうとするべく活動している。
もちろん、マーケティングは競合関係の中にある。あるメーカーが新製品でシェアを取る幸福を味わえば、競合メーカーは悲しみに沈み怒りが湧き上がることもある。店舗を構えた流通業者はネット通販業者の施策を嫌悪することもある。あるコンサートのチケットをゲットした人の驚きをもった幸福感は、抽選に外れた人の怒りを買うこともある。こういった不快情動があったとしてもそれが争いや、まして戦争に発展することがないのがマーケティングである。こうしてみると、マーケティングでは「幸福」情動が最重要になる。
4Pのどれもが幸福で起動され、幸福な結果をもたらすように設計、実践される。

ここから先は

0字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?