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余裕の話

「もうちょっと早くタッチパネルになったらよかったのにな」
 ご自由にどうぞと言われて入ってきたファミレスの席について、早速相方がパネルに手を伸ばした。ドリンクバーとポテトで何時間も粘る若手芸人に向けられる視線は鋭い。しかし相方は今ビールとミックスピザを頼んでいる。テレビの企画のゲーム大会で優勝し、それからちょくちょくと出演のオファーがあるのだ。
「でもあの子が注文取りに来てくれなくなったのは寂しいだろ」
「まあな……」
 そのため俺もパネルに手を伸ばしてビールと唐揚げを頼む。スケジュール帳に余裕はなくなったけれど、気持ちの余裕は随分増えた。
「あれネタにならないかな」
「あれって猫?」
 相方の視線の先には客に料理を運んでいる猫型の配膳ロボットがあった。メニューを運ぶし客や店員に「通して欲しいにゃ~」なんていうちょっと面白いロボットだ。高校生らしいグループに耳を撫でられて「おみみ触らないで欲しいにゃ~」と鳴いている。
「なんかなりそう」
「でもあれ全部語尾に『にゃ~』ってつくぞ」
「おっさんの『にゃ~』程面白いもんないぞ」
「あるだろ」
「お待たせしました、唐揚げとビールです」
「あ、ありがとうございます」
 一台しかいない猫型ロボットの代わりに料理を運んできてくれたのは店員の女の子だ。この子だけは俺達がフライドポテトとドリンクバーだけでも嫌な顔をしなかった。ごゆっくりどうぞ、と去って行った子を見送って相方に向き直る。相方は唐揚げについていたレモンをかじっていた。好きらしい。俺は唐揚げにレモンをかけない。
「でもあれまだ地方にはなくない?こないだ営業行った先で入った時なかっただろ」
「ああそうか……でもネットでは話題になってるよな」
「ネットの情報を鵜呑みにするのはよくないぞ」
「ちょっと考えるだけ考えない?」
「まあ多分広がるだろうしな」
 改めて猫を見る。高校生グループから解放されてどこかに行っていた。と思ったら猫がこっちにやってくる。相方のピザだ。
「ごゆっくりお過ごしくださいにゃ~」
「にゃ~」
「止めろ」
 相方がけたけた笑う。猫は別のテーブルを拭き終わった女の子と一緒にキッチンに戻っていった。
「なぁ」
「ん?」
「指輪してたな」
「ああ」
 俺達はそれぞれあの子に告白した事がある。その時彼氏がいるからと断られた。彼女には最初から余裕があったのだ。

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