AB社コラム第56回:「自分ファースト」トレンドの後に必要とされる人材とは?
コロナ禍でリモートワークが一気に浸透しましたが、いま、多くの企業でその見直しが進んでいます。
リモートワークになったから都心から郊外に引っ越したのに、また都心のオフィスに出社するように迫られている。話が違う!というような笑えない愚痴を耳にする機会も多くなりました。
しかし、人間の歴史は、急激な変化が起こっても、いつの間にか元に戻る。この繰り返しです。
揺り戻しは必ずある、今回はそんな話をしたいと思います。
人間の行動はノーマルに回帰する。
コロナ禍で一気に拡がったリモートワーク。会社員のあり方が根本からくつがえり、この流れはもう二度と元に戻らないように感じました。
しかし、今、多くの企業で「やはり出社すべし」と、再び流れは元に戻ろうとしています。
伝統的な日本企業(JTC)だけではありません。例えば2020年の1月下旬に世界に先駆けて全社在宅勤務を基本としたGMOグループは、2023年5月以降は出社を原則としました。世界的にも、テスラなどのIT企業、ゴールドマン・サックスなどの金融企業も、続々と完全オフィスワークに戻っています。
これは、人間の行動は均衡点(ノーマル)に回帰する、ということです。
何らかの要因でバランスを失い、ノーマルから大きく逸脱することがあります。それが「新しいトレンド」となり、「ついに時代は変わった」などともてはやされます。
しかし、次に来るのは揺り戻しです。
行くところまで行くと、今度は多くの人たちが「ホントにこれで良いの?いくらなんでも行き過ぎでは?」と疑問を持ち始めます。変化を嫌う保守的な人までがトレンドに参加するようになると、早期にトレンドを押し上げてきた人たちは、そっと静かにノーマルに戻り始めます。
まるで株のプロフェッショナルが値上がりした株を売り抜けるために、シロウト向けの記事をあえてながして、高値つかみさせるのと似ていますね。
こうして、私たちはノーマル→トレンド→ノーマル→トレンド・・・というサイクルを繰り返しています。
今のトレンドは「自分ファースト」な考え方。
いま来ているトレンドの流れは、「会社は個人の成長のためにある」という考え方です。これは若者たちの間でリモートワークトレンドよりも大きな波になっています。
就職して働くのは、個人の成長のため。
「個人の成長」が具体的に何を指すのかまったくわからないままに、誰もが「自分の成長」を追求しています。
興味があるのは個人の成長だけですから、自分がいま所属している組織を改善して成長させようとは、誰も考えていません。
組織の現状が自分を成長させてくれないなら、そんな環境に長居するのは時間の無駄(いわゆる「タイパが悪い」というやつです)。
組織をどうにかしようと努力するくらいなら、さっさと他所に移ったほうがタイパが良い。
そんな「自分ファースト」な考え方が、若者たちを中心とした今のトレンドです。
鬼となって組織の改善に尽力した人材が脚光を浴びる時が来る。
しかし、行き過ぎたトレンドは、いつか必ずノーマルに戻ります。
およそ500万年とも言われるヒトの歴史は、つねに集団・チーム・組織で生き抜いてきた歴史でもあります。
現在、労働市場は人手不足であることは間違いありません。しかしそれを都合よく利用して、組織から組織を渡り歩くような人たちがいつまでも珍重され続けることはありません。
もちろん、昭和の時代の行き過ぎた滅私奉公トレンドがこれから復古することもありません。「返事は『ハイ』か『Yes』か『おっしゃるとおり』」の面従腹背型サラリーマンは完全に絶滅するでしょう。
「自分ファースト」トレンドが終わり、社会がノーマルに戻っていく時、改めて脚光を浴びるのは組織のために動ける人です。
誰もが浮ついていた時代に、所属組織に踏みとどまり、組織のダメなところから逃げることなく、鬼となって組織の改善に尽力した人材です。
いま、多くの人が「自分ファースト」で、組織のトランスフォーメーションやイノベーションを本気でやろうとしていない中、本当に実行しようともがいてる人材は、必ずメインストリームに返り咲きます。