二重手術、埋没法のお話⑦
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この記事のまとめ
埋没法の手術の後、二重のラインが消えてしまうことが有るけれど、糸が取れてしまっているわけではないよ。線が消えてしまう理由はナイロンでは癒着が弱いこと、ポリプロピレンやポリビニリデンフルオライドでは糸に引っ張られた組織が緩む(ゆっくりと少しずつ切られる)ことが原因だよ。
糸は取れません
この記事では埋没法で作った二重の線が消えてしまう事について話します。
『糸が取れる』というのは埋没法に関してよく言われることですが、『二重手術の話、埋没法③』に書いたように糸は取れません。糸は手術時に結んできたほぼそのままの位置に有っても、埋没法では二重の線が消えてしまうことが有ります。それを「線が消えたって事は『糸が取れた』んだ」と誤解したのが始まりで患者さん側に広まり、その後医療従事者側にもいわば逆輸入で『取れる』という表現を用いる人が徐々に増えてきたことで、この誤解が拡大再生産されている状況です。
そもそも二重まぶたとは何か
「なぜ消えるのか」の話の前にまずは二重とは何かをお話しします。
『二重まぶたの話』をご一読ください。
短くまとめるとまぶたを開く力が正常で、その力が穿通枝を通じて皮膚に伝わって、厚さなどの抵抗に打ち勝って皮膚が引き込まれると二重のラインが出来ます。
埋没法で二重の線が出来るのは何故か
次に、何故埋没法で二重になるのかについてお話ししましょう。「糸で留めるから」?まあそうとも言えますが、そんなに単純な話でもないのです。
さて、ここで一旦『二重手術、埋没法のお話③』をご参照ください。
初期
初期に関しては「糸で留めるから」はほぼ正解です。まぶたを開く力が糸により皮膚を引き込む力になって、これが抵抗力に打ち勝つと二重になるわけです。
維持期
初期の項で述べた『皮膚を引き込む力が抵抗に打ち勝っている状態』が維持されれば二重のラインが維持されます。どのように長期に二重のラインが維持されるかは用いる糸によって異なります。
ナイロン
今までこのnoteで何度も述べている様に、ナイロンは生体内で加水分解を受け、その抗張力(引っ張りに耐える力)は年間最大で20%低下します。
その過程で生体反応を惹起し、糸周囲の繊維増生が生じます。なので、ほぼ全例でナイロンが用いられていた私が美容外科医になった頃には埋没法による二重の線の維持はこの繊維増生による癒着がキモだと教わっていました。ポリプロピレン(プロリーン®)やポリビニリデンフルオライド(アスフレックス®)
ポリプロピレン(プロリーン®)とポリビニリデンフロライド(アスフレックス®)ではナイロンと違い加水分解はほぼ生じず、繊維増生も(ポリプロピレンの方が僅かに多い印象ですが)ほぼ生じません。これらの生体反応性が低い糸に関しては、糸の存在そのものが二重の線を維持させていると考えられます。
二重の線が消える
前段に述べた【引き込む力>抵抗力】の状態が維持されなくなると二重のラインが消えてしまいます。抵抗力の方は通常はほぼ変わりませんから、引き込む力が弱くなってしまうとラインが消えると言い換えることもできます。
ナイロン
癒着が生じなかったか弱かった場合が殆どです。この様な場合でも初期には糸のテンションが有るので二重のラインが出来ますが、加水分解の影響と、次の項で述べる『組織の緩み』のせいで糸のテンションは徐々に弱くなります。
この時点で皮膚を引き込むのに十分な癒着が生じていなければラインは消えてしまいます。また、この時点で癒着が生じていても、糸が完全に加水分解されて無くなってしまえば繊維組織も徐々になくなり、二重の線も消えてしまいます。
ポリプロピレン(プロリーン®)とポリビニリデンフルオライド(アスフレックス®)
こちら2種の糸を用いる場合は癒着ではなく糸の存在そのもので二重のラインを維持します。加水分解もされませんから、永続的に二重のラインが維持されるかというと………これがそうではないんですね。
ナイロンの項で書いた『組織が緩む』という話です。これ、もう少し正確にいうと糸のテンションで、ゆっくりとまぶたの組織が切れていってるんですね。もちろん切れっぱなしではありません。氷の塊にワイヤーかけてワイヤーにおもりをぶら下げる実験(YouTubeへリンク)見たことありませんか?あんな感じで、糸が組織を切るけど自然治癒でくっつくということが長ーい長い時間かけて起こっているのです。これによって糸のテンションが弱まり、皮膚を引き込む力が減って抵抗力に負けてしまうと二重のラインが浅くなったり消えてしまったりするのです。
あとがきと次回予告
「ひょっとしたら次かその次で終われるかも!今度こそ本当に終われるかも!」と思ってます本当です。
今回までで何故埋没法で二重になるのか、そして何故その二重の線が消えるのかということはだいたい説明できたと思います。
次回は「じゃあ戻らない様にどう手術したら良いか」って話を書こうと思います。の内、総論的な部分というか概念的な部分だけ書きました。
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