「TENET」感想
観に行ったのは先月なんですが、友人各位と意見を交わしたりパンフレットを読み込むなどして感想を残しておきたいと思ったのでここに記録しておきます。
というかちまちま書き溜めていたのに下書きがおじゃんになってしまったので一度心折れて書き直すまでにこんなにかかってしまった。
イヤ、なんせノーラン作品の醍醐味は鑑賞後の余韻と考察!
彼の映画を好む大抵の人はこの唯一無二の映像作品をドヤ顔でぶつけられた置いてけぼり感がクセになったクチではなかろうか。
この考察と想像の余地を多分に残し、映画だけでなく他媒体、パンフレットや設定資料集、製作陣内外から溢れる裏話や逸話、果てはSNSに転がる無数の感想なんかをひっくるめて一度じゃ満足できない身体にされちゃう体験、ほんとにずるいよね??
「一体何を見せられたんだ……?」という映画の中だけに描き切られない余白がエンターテインメントとしての質を多層的にしてくれる。もう一度観ないとと思ったら負け。
移動王国民だった私は知ってるんだ。
タイムトラベルものは既にこの世にごまんとあるし、「TENET」の過去に戻って未来を修正するストーリー自体、何ら目新しいものでもない。
今回のノーラン渾身のオリジナル要素はあの「回転ドア」くらいで、未来人との攻防やタイムパラドックスが齎すドラマなんかもよくあるもの。
にも関わらず「TENET」で味わされる体験は、一重に指を鳴らしたり魔法道具を使って一瞬で切り替わる時間ではなく、順行と逆行を同じ画面上で堂々と映像化していること。
「インセプション」であれば折り畳まれる街の光景であったり、「インターステラー」であれば五次元の空間であったり。
「理屈だけならば何となく脳内で補完できてしまうけれど、映像としては明確に想像できない」部分を、カットで誤魔化さず気持ちよく見せてくれるからだと思う。理論的な正確性や整合性はこの際考慮しなくていい。だって映画なんだから。
だから初見の観客にも最初に回転ドアから出てきたスーツたちが恐らく「男」であることには予め想像がつくし、ホテルで待ち合わせたニールが未来から来たこともすぐに脳内で補完して、さっさとDon't think, feelに専念できる。
過去作の「メメント」や「インセプション」はそういう意味で用語や設定の複雑さ故に一度目から作品を楽しみきれないところがあった分、今作にはそういうストレスがなかった。
さてそのストーリーの話。
今作における「順行と逆行の速度は同じ」という前提を捉えて納得するまで、少し時間がかかりました。ミスリードや設定の矛盾もあるし。
ただノーランの中で時間を「飛び越えること」はできないというのは一貫しているのかな。
たとえば誕生日に飛行機に乗って24時間で地球を二周して日付変更線を二回超えたとしても誕生日をスキップしたりしない様に、時間を遡っても彼らの時間は未来に向かって等速で進み続けていて、彼らが行っているのはタイムトラベルではなくタイムトランスファー。同じ時間軸上の過去・現在・未来を乗り換えして駆け引きしている包括的予定調和の世界……ってことでいいんですかね?
まあそのあたりの原理は理系の人の解説から分かったような分からないような感じのままフヨフヨさせておきます。
ぶっちゃけ贋作の話なんかはややこしいだけで要らなかったと思うけど、例のラテン語の回文からヒントを得ましたよっていう装飾要素と捉えるべきなんでしょう。
エリザベス・デビッキ様が長駆を折って絵を覗き込む様のなんと艶かしいこと。30000000回巻き戻して。
キャットがセイターを撃ったことに関して、ヒステリー女って捉え方をする人もいるみたいだけど、個人的にはあの「もう殺っていいわね!?」の顔が大好きです。
彼女の掌中には実質二度セイターの生殺与奪の機会が付与され、一度目に引かなかった引き金の結果を彼女は思い知っている。二度目に引き金を「引かない」未来は一度目の過ちと苦しみ、夫の仕打ちをもう一度「受け入れる」ことになってしまう訳で、キャットにそんな選択はありえない。許す訳ねぇだろ息子を人質にして世界を脅すような男なんか。
彼女は始め「あの日迷いなく海に飛び込んだ女が羨ましい」(うろ覚え)みたいなことを言っていたので、逆行する中でその女は自分なんだと確信していったからこそ殺害を決断したのではないかな、と考える次第。
ニールが「起きたことは起きた」と言っていた通り、「TENET」の世界においてタイムパラドックスは存在しない。つまり、あの時点で「セイターが殺される」ことと「アルゴリズムが起動しない」ことが同時に矛盾しないことは既に確定していたことだと思う。
だって冒頭で「男」が「オペラハウス襲撃作戦に参加する」時点で〈黒幕〉たる未来の彼自身の存在を証明することになる訳だから、あの映画で同時刻に起きていたことは既に確定している未来で、多分、テネット班を逆行の中で突き動かす原動力は、その確定している未来の自分の理念なんだろうな。
私は悪党には粛清を望んでしまう人間なので、「被虐の女性像」の打破をきちんと行ってくれてスッキリしました。
世のDV男に災いと呪いあれ!
スタルスク12の時間挟撃作戦の話は正直よくわかっていないけど、映像としての見応えは凄かった。
要するに順行と逆行両側から同時に襲撃することで、あの地点における事実を「最初から無かった」ことに上書きした……ってことかな?
作品冒頭のキエフの劇場襲撃が起きた時点で、セイターがスタルスク12で自害してアルゴリズムを起動させることが決まっていて、その未来を変えるためにテネット班が奔走したわけだから、パラレルワールドを引き寄せた訳ではなく時間の挟撃作戦によって確定した未来を破綻させた……ということになる……?よくわかってません。ていうかアルゴリズムってなんだね。未来の爆弾分解してポンポン投げ合って平気なのかね。
私にわかるのは去っていくニールの後ろ姿が最高ってことだけです。
観賞後にキャストの裏話や製作風景なんかを漁るのが大好きなので、あの順行「男」と逆行「男」のシーンでJDが如何に身体能力に秀でたキレキレぶりだったかを知って興奮しました。しかも逆回しの映像を使ったって事足りたものを、立ち位置を反転させてもう一度やらせただなんて、んなことやれって言われたら普通イヤ無理だろ何言ってんだってキレちゃうよ。
ノーラン曰くCGで作るより中古の機体を買い取って爆破する方が安かったかららしいですが、いや、それ一回で成功すればの話では?何言ってるかよくわかりません。
毎回この監督のリアリティに対する拘りにはやや怖いものを感じるなどする。次はどんなものを見せてくれるんだ。
それにしても、エリザベス・デビッキ様やシェイクスピア俳優たるケネス・ブラナーを差し置いて、ロバート・パティンソンをカッコいいと思う日が来るとは思わなかった。まあケネス・ブラナーはロシア訛りの役作りも含めて演技が上手すぎて気づかなかったってだけだけど。
ロバート・パティンソンの出演作はトワイライトシリーズやハリポタのセドリック、「ベラミ」くらいしか知らなくて、正直あの髭やもみあげが濃くて薄汚れた感じが周囲にキャーキャー言われるイケメン像からは少し離れる気がして(ド失礼)、ほぉ〜ん、くらいの印象だったので、こういうちょっとだらしなくて捉え所のない、しかしおいしいところは逃がさない憎い役を与えてくれてありがとうとしか言いようがない。
二回目を観に行く人の半分は彼視点で観たいがためのおかわりじゃありませんこと?
また消えちゃった内容で言いたいこと思い出したら追記します。
あんまりグッズに興味ない人間だけど、テネるカード貰いにもう一度行けたらいいなと思ってます。