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資料依頼に関するアンケート結果と私見

0.初めに

会計クラスタなら皆さんご存じのてりたま先生(from:@teritamadozo )が以下のような監査の資料依頼に関するPostをされました。

『企業の経理部門など、監査法人の監査を受ける立場にいらっしゃる方に質問です。 「監査人からこんな資料依頼をされて訳が分からなかった/困った/腹が立った」という事例を教えていただけませんか?』

私は大手監査法人退職後、経理の管理職もしていたことがあり、その後、また監査側に戻り、実際に手を動かしつつかつ監査報告書にサインする立場になりました。普段からXで依頼資料リストに対する経理の方の不満のポストをよく目にし、出来るだけこの不満を解消しようとしておりましたし、それに関するnoteも書いておりました。(https://note.com/auditors_dog/n/n582e3468f01a?sub_rt=share_sb)。
また、てりたま先生のポストと同じタイミングで、経理の方達と直接お会いして資料依頼についてお話しする機会を設けようとしていたところなので、このポストに対するリプライのとりまとめ係に立候補させて頂きました。快諾してくださったてりたま先生ありがとうございます。てりたま先生は「監査マネジャーであれば何ができるか」という切り口で本件についてマネジャー視点からnoteを記載されていらっしゃいます(https://note.com/teritamadozo/n/ndfe04c7b9dde?sub_rt=share_sb)。本noteとともに是非てりたま先生のnoteも合わせて読んで頂ければと思います。

私の方は集まった意見を大まかに分類し、その傾向や対策、私見などを記載しました。長文になりますが、目を通していただき、監査人側、会社側でより良好な関係構築の一助になればと思います。


1.説明不足

集まった意見の1/3以上が監査人側の説明不足によるものでした。多くは、依頼する資料リストが分かりずらい、何の資料を提出すべきか分からない、提出する資料の意図がわからない、といった内容です。またバランスゲートウェイの操作方法に対する不満もありました。

監査人側の対応策としては、

  • 資料名は一般的なものではなく、会社側が使っている資料名を使う。

  • 資料の依頼目的を記載する。

  • 依頼資料をわかりやすく説明する。

  • それでもわかりづらいものは昨年提出頂いたものを提示する。

などとちょっとした工夫で解消できそうです。資料を提出してもらわないと仕事が始まらないですし、適時に提出頂くのも腕の見せどころの一つ、依頼資料リストはいったん作り込んで、監査期間中に来年向けに更新していくようにすれば良いかと思います。

監査側の立場として会社側の方にお願いしたいのは、毎期同じファイル名にして頂きたいということと、別段、資料名がない資料もあるかと思いますので、会社側・監査側が共通認識できるような資料名を付けることにご協力を頂ければと思います。

一つ難しいのは資料の依頼目的です。現在の監査は世の中の意見を反映して、不正に対する監査手続が手厚くなりました。どんな会社でも不正を行うという前提で監査をやることとなっています。資料の依頼目的と監査手続は表裏一体ですので、資料の依頼目的を説明すればするほど、監査手続も想像ついてしまいます。もし不正を行っている会社があったとして、そのような状況では効果が非常に薄くなりますよね?私も不正を行っているかもしれない状況に遭遇したことはありますが、資料依頼が非常に難しかったです。

そして強く感じたことは、会社側の方達が依頼資料に対して質問するのを遠慮している、ということです。監査側としては遠慮なく聞いて欲しいと思っているので、会社側の方は気軽に聞いて頂ければと思います。
監査人側も依頼資料リストを提出するだけではなく、口頭で説明したり、不明点がないかどうか確認しても良いかもしれません。会社側が監査人側が想像している以上に疑問点を口にするのを遠慮しているということは少なくとも認識する必要がありそうです(今回のアンケート結果では会社側の方から厳しいものもあったのですが、普段は口に出来ず不満が溜まってしまっているのかもしれません)。

2.配慮不足

次は配慮不足です。依頼の言い方や仕方です。監査人側は乱暴な言い方をしていませんか、ファーム固有の用語を使用していませんか、頻繁に催促しすぎたり、依頼の窓口が不適切だったりしませんか?
要は監査人側は会社側が受け入れやすい形で資料を依頼する必要があるということです。受け入れやすい形とは何なのか難しいところですが、資料を依頼される側のことを考えることがスタートだと思います。

個人的に思うのがSOXなど、経理の方以外に資料を頼む際はより配慮が必要と考えます。企業側の経理の方達は自分たちは我慢するから他の部門に迷惑かけないで欲しいという気持ちは当然あるのではないでしょうか。
私が経理の方以外に資料依頼する際には、依頼する資料やその目的をより丁寧に説明して、経理の方が他部門の方にそのまま依頼できるような形で資料依頼するようにしています。

会社側の方に一つ気に留めて頂きたいのは、監査人側も意外に経理側に遠慮している、ということです。そんなことねぇよ!いつも横暴な態度だよ!という反論もあるかもしれません。今回のアンケートではごもっともな記帳な意見が多かったのですが、これはさすがに…というご意見もありました。しかしながら、監査人側の強い反発はありませんでした。悲しくなっても会社側がお客様だと思っていること、会社側に対応して頂かないと仕事が始まらないことを理解しているためかと思います。

仕事だからやらなくてはいけませんが、企業側に資料を頼むと仕事が増えて嫌がられる、嫌がられることは可能な限りしたくないという人の方が多いと思います。当然ですが、監査側は会社側を困らそうとして資料を依頼している訳ではありません。企業側の方も、請求書や経理精算の催促するのは気持ちの良いものではないのでしょうか。特に監査人側の新人などにとって資料依頼は心理的ハードルが高い行為だと思います。それゆえに高圧的だったり、変な態度になってしまうのかもしれませんね。言い訳にはなりませんが。

3.タイミングの遅延

一番多い不満かと思ったのですが、依頼資料リストの提出の遅延やその後の資料依頼のタイミングの遅延に関する意見は想定よりは少なかったです。当たり前すぎるからでしょうか。監査人側のすべきことは依頼資料リストは適切に更新する、早めに出す、十分な準備期間を設定する、ですね。
私がしているちょっとした工夫は、毎期頼むものと、今期だけ頼むものは表を分ける、です。そうすれば来期に不要な資料をリストから削除するのも楽ですし、削除漏れも防げます。会社の方も毎期必要な資料は依頼資料リストが来なくても準備しやすいかと思います。そして上記にもありますが、当期の監査をしながら、来期の監査の依頼資料リストを作成するのが一番ですね。来期さっと資料依頼できます。

4.その他

1から3で不満の6割を占めました。その他は一般常識レベルの知識の不足やクライアントのビジネスの理解不足といったもの、監査チーム内での情報共有不足でした。

5.伝えたいこと、思うこと

5-1.監査人に伝えたいエピソード~それって世間に公表されないですよね?~


私は経理の管理職をやっていた時期があり、依頼資料に関して一つ思い出があります。

私は監査に必要な資料は出来るだけ早めに提出した方が結局楽に終わると思っています。経理の管理職をしていた時は元監査人ですので、出来るだけタイムリーに資料提出するようにしていました。けれども月次の作業とも重なったこともあり、少し監査人を待たせてしまい、結果、催促させてしまいました。「ちょっと月次の作業が…」と言いかけた際の監査人の顔が『月次決算は内部的なものですよね、年次決算は公表されますよね、間違いがあったら大変ですよね』と言っているように見えました。なぜなら、自分が監査側の時に良く飲み込んだセリフだからです。

監査側に資料を適時適切に提出しない結果、訂正報告になったら大変なことは重々承知しています。とはいえ、自分で決算をやっているので、不正はないし、増減見ても概ね予想通り、そのため、最悪、誤謬(注:修正すべき事項)が見つかってもせいぜい経営者確認書に記載すれば済むレベル(注:大きなミスは訂正しないと監査意見に影響しますが、それよりは修正しなくても経営者確認書に記載すめば済む)だろうというのは肌感でわかります。
一方、月次が遅れてしまうと、自分の評価のマイナスになり、サラリーに響きます。そんなケチ臭いことだけでなく、取締役たちへの現時点の業績報告が遅れると会社が次の手を打つのが遅くなってしまいます。
発生可能性が高くない重要な誤謬発見のための監査対応と会社や自分の評価に影響がでてしまう月次決算、となると自分の優先順位は状況によっては月次>監査対応になってしまうのです。自分が監査人のとき、経理の方は同じことを思っていたのだろうと思うと非常に申し訳ない気持ちになりました。

監査では依頼すべきことは依頼しなくてはならないのはもちろんですが、自分たちの仕事を大事に思うとともに、会社の方達の仕事も同じように大切にしたいと思います。

5-2.会社側の方に思うこと~それって監査にだけ必要ですか?~

今回、Xのアンケートで募ったご意見は資料依頼全般についてでしたが、切り口を変えると依頼資料リストに関連するものも多かったです。
J-SOXは別として、決算監査で事前依頼資料リストに記載されている資料のうち、監査にしか使わないものはどれだけあるのだろうか

往査前に依頼される資料の多くは決算にも必要な資料、引継ぎや将来のために作成しておいた方が良い資料なのではないでしょうか。監査人に提出する際には不要な部分を削ったりなどの多少の作業は必要かもしれませんが、基本的に会社の決算に必要なものばかりで、もし作成していなかったら、会社の管理上まずいものが多いのではないかと思います。

監査人にとっては事前依頼資料リストに載せている決算資料を入手して、そこから手続が始まり、監査のためだけに必要な資料をお願いするのが通常かと思います。依頼資料リストという名前に”依頼”という言葉が入っているために、リストに入っている資料すべてが監査のために依頼されて作っているような気がしてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。そしてもし、依頼資料リストに記載されている資料が決算資料だったとして企業側がその作成意味がわかっていなかったなら…。私は実際そのようなケースに当たったことがあり、企業側が行う決算手続に不安をおぼえたことがあります。

これは極端な例ですが、監査のためだけに必要なものか?会社のために作っておいた方が良い資料ではないかと一考頂けると幸いです。企業側の方から監査資料の用意は優先順位の低い雑用といった趣旨のご意見もあり、私は非常にショックを受けました。監査資料は100歩譲ったとしても、決算資料作成の優先順位は下げて欲しくないと思います。

6.最後に


答えは初めから見えていたのかもしれませんが、結局はコミュニケーションをきちんと行うことなのかと思います。経理の方、監査人、お互い思っていることを適切な形で表現して、協力していければと思います。アンケートに協力してくださった方、ありがとうございました。アンケートには書けなかった、もっと話したいという方は、会を催したいと思いますので是非参加してください。またこのnoteの初めの方で紹介させて頂きましたが、依頼資料リストについてのnote(https://note.com/auditors_dog/n/n582e3468f01a?sub_rt=share_sb)についても目を通して頂き、ご自身の監査に反映頂いたり、ご意見頂ければと思います。長文読んでくださり、ありがとうございました。

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