お世話になった人⑮
話は、私が23歳から27歳までお世話になったあるホテルのルームサービスで働いていた時の話である。
ルームサービスというのは、そのホテルのレストランで作っている料理全てが対象になるので、他のレストランの従業員と違い、各部署と緊密なやり取りを常に取っていなくてはならなかった。
今日、お話するのは、次第に和食キッチンの板前さんのひとりである。彼は、「お世話になった人⑬」でお話した先輩と同い年で、その人経由で仲良くなったというのもあるが、直接的なやりとりも少なくはないと思っている。彼は、私が入職した当時、27歳か28歳で、キッチンでの立ち位置が、和食キッチンを入ってすぐの所で、行けば必ず顔を合わせる場所にいたというのも大きいと思う。
彼の主な仕事は、お新香を切ったり、その他材料の仕込みなどだったかと記憶している。ある日、私をこのホテルに呼んだ前のアルバイト先のレストランの店長だった人に、いびられているところを見られてしまった事があった。私は、元上司だという認識を持っていたが、ホテルでは、同じ立ち位置で、制服も同じものを着ることもあるので、同じ制服の人同士がそういう事をしていると、いじめ、いじめられているように見えてしまうことも多々あった。
彼はその様子を、少し離れたところから見ていて、直接関わるという事はなかったものの、後日、従業員食堂で会ったとき「なんなんだあいつ」と言っていた。知らなければ、そう思うのも当然だと思う。
また帰る方向も同じで、一時期は一緒の電車で帰るという事もあったし、先輩と一緒に飲みに行くということもあり、また、和食キッチンの板前さんに限ったことではないが、私は、このホテルで関わった全ての人に感謝している。みんなとてもよく接してくれたのだ。
ある日、自宅で、家具の角に足の小指をぶつけてしまって、かなりの痛い思いをした事があった。普通なら、そういう痛みは数分で回復する。だが、回復する事はなく、私はそのまま、夜勤の入りに入ってしまった。結構硬めの革靴を履いていたためか、普通に走ったり歩いたりはできていたが、痛みはそれなりに我慢していた。
夜勤の休憩時間になって、同僚の人に、実は、家具の角に足をぶつけてまだ痛みがあるという話をしてから、どういうふうになっているか気になって、裸足になってみたのだが、なんとびっくり。足の甲全体が青紫色に腫れ上がっていたのだった。
同僚の人も驚いて、普通そんな風にはならないよねなどと言ってきた。私は、朝仕事が終わったら、そのまま病院へ行くと話し、その通りにしたのだが、私が仕事終わりで、建物の外に出ると、ちょうどその和食キッチンの板さんが、出勤のため入るところだった。革靴ではないスニーカーの私の不自然な歩き方にかなり心配そうな眼差しを送ってきたのだった。
病院を受診すると、なんと剥離骨折を起こしていて、全治2週間を言い渡され、その間は欠勤扱いとなった。その時は、ルームサービスの同僚、上司などから心配され、自宅を訪ねて来てくれる人もいたのだが、彼もそのうちの一人で、車で来ては、買い物を一緒に手伝ってくれたりもしたのだった。
そうこうするうちに、だいぶ親密な仲になってきて、私が非番の時に、よく言っていた韓国料理のお店に飲みに行ったり、住所を教え合って年賀状のやり取りもしていたのだった。彼は、私が入った時は、独身だったが、ホテルに出入りしていた花屋の人と結婚したのだった。
年賀状では、子供ができた時の写真などを見せてもらっていたが、世間的に年賀状をやめる流れになり、今はまったく連絡を取らなくなってしまった。
またいつか会う時はあるだろうか。。