見出し画像

げ、もう戻れないね(脚本家 島川柊)

連載第二回目は、「演劇と劇団」というテーマを頂きました。
東のボルゾイ という劇団を主宰しています。プロフィールや過去作なんかはホームページにまとまっているので、ここでは、なんでこんなことになったのか、を話したいと思います。
率直に言いますと、私は劇団を立ち上げた時、心の中で呟きました。

げ、もう戻れない。

…嫌々やってんのか?
いや、違うの、待って、聞いてください。

劇団を主宰するなんて微塵も思っていなかった頃、オリジナルの戯曲が初めて形になったのは、東京藝大四年生の時でした。
研究室の先輩(だけど同い年)に、「ミュージカル作りたいんだけど、書ける?書けそう!書けるよね!」と、狂った口車に乗せられ、ロクな構想も無く脚本を書くことになったのがきっかけです。
先輩は高校時代から演劇を作っていて、大学で出会った時点ですでに、演出家の道を邁進している人でした。彼女はさながらルフィの如く、学内で見所がある人間を発見しては無邪気に声をかけ、演劇の一味にし、ひとつなぎかは知りませんが何かしらの秘宝を探しているようでした。

「オメェ、面白えな!」って、海賊先輩を唸らせたろ。
燃えた私は、長年夢想してきたドラマチックなシーンを乱立させ、高カロリーな登場人物たちを鮨詰めにし、土足で韻を踏んだ歌詞を並べ立てました。ドーパミンの赴くまま、確か二徹で第一稿書き上げました。ちょっとどうかしています。
今思えば、つぎはぎで強引でとっ散らかった作品でした。
けれど一人暮らしの狭い部屋で、書けば書くほど膨張していく世界と、勝手に喋り出す登場人物どもと出会い、たまらない気持ちになったのを覚えています。
書き終わった時、感じたのは達成感ではなく、終わっちゃった、という喪失感でした。

ここから先は

2,595字 / 4画像
この記事のみ ¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?