好きになった人がめっちゃハゲていた話
ネパール第2の都市「ポカラ」。
フェワ湖という大きな湖があって、晴れた日にはヒマラヤが見渡せる、
首都カトマンズとは対照的なのどかな街。
不思議なことに、よく聞こえてくる鳥の鳴き声が「ポカラ、ポカラ」と言っているように聞こえる。が、これは私の気のせいだと思う。
この土地に来る多くの人の目的は「トレッキング」である。
私は、首都カトマンズから長距離バスに乗ってこの地に辿り着き、迷いながら目星をつけていた宿へ行った。俗に日本人宿と呼ばれるゲストハウスで格安である。
案内されたドミトリーという名のほったて小屋には、トレッキングから帰って来たばかりの日本人が2人滞在していた。2人とも、次の日には首都のカトマンズに戻るという。
次の日、2人は予定通りカトマンズへ旅立った。
私はというと、宿のオーナーから「別の部屋が空いたから案内するよ」と言われ、ほったて小屋から脱出し、各段にいいドミトリーに移動した。他には誰も止まっておらず貸し切り。
その日、私はぶらりと外を散歩した後にドミトリーに戻ると、新しい旅人のバックパックがあった。その彼女は夜に宿に帰って来て、少し話をしたところ、次の日にはトレッキングに出発するという。
もう一度言う。
この土地に来る多くの人の目的は「トレッキング」である。
そのため、出会いが会ってもすぐに別れが来る。
「ポカラ」はそんな街である。
そんな私は何が目的でこの地に来たのか。
理由は2つ。
1.「ポカラはいい街」と言っている人がいたので行ってみたかった。
2.ヴィパッサナー瞑想の合宿に申し込んだから。
ということで、2.のヴィパッサナー瞑想の合宿が始まるまでの1週間、私は特にトレッキングに行く気もなくノープランだったのである。したがって、登山から帰って来た旅人、これから登山へ向かう旅人を迎え、見送ることを繰り返すことになる。
ポカラに来て3日目のこと。
本日も予定は散歩と街中探検である。
今日はいつもと違う方角に行こうと、宿から大通りへ出て左に曲がる。
少し並んでいるお土産屋を横目に見て、さらに進もうとしたが、もう何もなさそうだ。
「そういえばお腹が空いたなぁー」と思い、もと来た道を戻る。
すると、「ハーイ!ジャパニーズ!?」とお土産屋から聞かれ、「イエス!」と答える。
「カムカム(おいでー!)」と言われ「ノー」と答える。
「ちょっと話そう」と言われ「お腹が空いているからムリー」と答える。
「5分だけ!」と言われ「話すだけ?買わないよ」と答える。
ということで、お土産屋と5分だけお話することにした。
が、「ちょっと待って!ジュース買ってくる」と言われ、待ちぼうけ。
(え、ジュース!?睡眠薬が入っていたらどうしよう)と思ったが、パックのジュースでしっかり封がしてあったので遠慮なくいただいた。
お土産屋の彼はとっても話やすく、英語も聞きとりやすく、話は弾んで30分ぐらい話した。しかし、男性は大好きだが、男性と話すのが苦手な私は、話のネタがつき、お腹も空いたので、とりあえずこの場を離れることにした。
別れ際、「スィーユーレイター!(またあとでね)」と言われ、なぜか私は、普段しないハグを無意識にしていた。一瞬で離れたが、正直(めっちゃいい抱き心地)で、話が楽しかったこともあり、ときめいてしまった。
その後、若干浮かれた気分でお昼ごはんを食べに行き、彼と話していて、うまく英語で伝えられなかった内容を調べたりした。
ポカラに来て4日目のこと。
本日も予定は散歩と街中探検、そしてお土産屋の彼に会いに行く。
彼に、次の日からドミトリーのルームメイトと1泊2日のトレッキングに行くことになったことを告げる。
「キスがしたい」と言われる。お断りする。
ポカラ5日目、6日目。
急遽決まった、1泊2日のトレッキング。
小学生ぶり、人生二度目のトレッキングはアラサーの私にはキツかった。
ルームメイトに迷惑をかけ、助けられながら、なんとか登頂して下山した。
ポカラ7日目
2日ぶりにお土産屋の彼に会いに行く。
いつもは昼ぐらいだが、この日は待ちきれず、朝一番に行った。
いつもは店先に彼は座っているが、今日はいない。
店の出入り口から中をのぞくと、頭皮をマッサージしている薄毛の人がいる。
鏡ごしに私に気づいたその人は振り向いた。
(ハッ!いつものお土産屋の彼だ!だからいつもキャップかぶっていたのか)
一瞬ポカーンとしてしまったが、「アー・ユー・ビージィー!?(今忙しい?)」といって、頭をマッサージしているジャスチャーをしながら訊ねた。
”頭のお手入れ中で忙しいでしょうか”と、私なりに驚いた様子をごまかしたつもりだ。
すると、「ノー、日本にいい薬ある?」と彼は聞いて来た。「知りません」と答えた。
彼は私より若い。29歳の男性だ。しかし、なかなかのハゲっぷりだった。
まったく気づかなかった。なんせ知り合ってから、会うのが今日で3回目だ。
だからと言って、嫌いになることもなかったが。ただただ驚いたのだ。
そして、その日も彼と少し話をして、次の日から12日間、ヴィパッサナー瞑想の合宿に行くことを告げる。
ポカラ8日目~19日目。
待ちに待った12日間のヴィパッサナー瞑想の合宿。
私がこの合宿に参加した目的の1つは、10日間一切話すことが許されないこの合宿で、集中力をつけるため。
ヴィパッサナー瞑想の合宿、体験後の結果。
お土産屋の彼のことで頭がいっぱいで、全くもって集中できなかった!!!
このタイミングで知り合ってしまったことを深く後悔。
ポカラ19日目~20日目。
ヴィパッサナー瞑想の合宿で知り合った日本人を含む仲間と、合宿施設そばのベグナスという地で過ごす。
ポカラ21日目。
約2週間ぶりにお土産屋の彼に会いに行く。
ヴィパッサナー瞑想の合宿の話をするが、あんまり興味がなさそうである。
そして「君をFUCKしたい」と言われる。お断りする。
「なんでー!?」と聞かれる「私は日本人だから、友達とはそういうことしないんだ」と答えるが、あんまり私の英語は伝わっていない様子。
「なんで!?人生楽しまなくっちゃ!エンジョーイ!」と言われた。
この「エンジョーイ!」で、私の気持ちはパッと冷めた。
私が好きだから「FUCKしたい」じゃなくて、楽しみたいからなのね。
その日以降もポカラにいたが、お土産屋の彼に会いに行くことは控えた。
友達以上恋人未満的な進展を恐れたからだ。
ポカラ25日目。
4日ぶりにお土産屋の彼に会いに行く。
次の日、首都カトマンズへ戻ることを告げる。これでお別れである。
彼は「またポカラへ来るんだよ」と言ってくれた。
が、その数日後、彼に
「今日はバクタプルへ行って来たよ」とメールをしたら、
「オッケー。テイク・ケア・ユアセルフ(分かった、気を付けて)」。
その数日後、彼に「明日からインド行くよ」とメールをしたら、
「テイク・ケア・ユアセルフ(気を付けて)」。
・・・コピペ的内容だった。
ちなみに、育毛剤で頭皮をマッサージしているのを発見した日から、彼はあんまりキャップをかぶらなくなった。気のせいかもしれないが、日に日に毛は増えているように感じた。
※2016年4月24日~5月18日 ネパール・ポカラ
「Over30女子バックパックでアジア周遊」