インドを旅した女は強い
2014年4月、私は31歳にして初めて、バックパッカーになった。
スタート地点は東南アジア、その後ヨルダンには絶対に行くと決めていた。気持ち次第で、間にほかの国を入れることも考えていたが私はいきなり中東・ヨルダンに入った。インドを経由したかったが、行くのが怖かったからだ。
ヨルダンで知り合った日本人バックパッカーに話を聞くと、ほとんどが東南アジアを経てネパール・インド入りし、そして中東に入って来た人だった。
「わぁーすごい!インド怖くなかったの?レイプとか大丈夫なの?」と、インドに行った女性何人かに聞いても「全然大丈夫だった、楽しかったよ」とあっけらかんと言う。そして彼女達に共通することは"肝が据わっている"。
(インドには何があるんだろう。私もインドに行ったら強くなれるのかな)
インドには、ガンジス川やタージ・マハルなどの観光以外にも、何かがあると私はこの国に多大なる憧れを持っていた。
そんな憧れを持っていたのも、今は昔。
2016年9月、私のインド旅はトータル2か月目に突入した。
ラジャスターン州に入り、ウダイプルから次の街・プシュカルへ行くためのチケットを買いに、私はバスターミナルの窓口へ向かった。
窓口のおじさんが何か言っている「アー・ユー・…??」。何を言っているか2回ぐらい聞き返して「アー・ユー・レディ?」と聞かれていた。("準備はOK"って聞かれているの?)と思っていたら、「アー・ユー・レディ?ガール」と性別を聞かれていた。「イエス!イエス!」というと「ラジャスターン州は女性は割引だ」とのことだった。
もはや女に見られないほどの姿になったのかと思い、自分の服装を確認すると、インドで買ったターバンのおじさんが書いてあるグレーのTシャツにユルユルのカットソー生地の黒のズボン。無理もないかと思ったが、これぐらいの方が移動時はラクなのだ。
そんな楽さを優先して、女っ気のかけらもない服装で移動を繰り返していたある日。それはプシュカルからジョードプルへ向かっている最中の出来事。
ローカルバスに揺られながら、私は窓際に座っていた。すると、左の二の腕に何かが触れるのを感じた。ふと左を見ると後ろの座席に座るインド人の手だった。「触れてますけど」と言う顔をして不快だとアピールすると、インド人の手は引っ込んだ。しばらくすると、また左の二の腕に何かが触れるのを感じた。また、後ろの座席に座るインド人の手だった。
最初は椅子の背もたれを持っていて、うっかり手が私に触れているのかと思っていたが、どうやら軽度のセクハラのようである。不快に感じた私は、そのインド人を睨みつけ、逆の列の窓際に座席を変えた。
とりあえず、私はまだ女と認識されたようで若干ホッとした気もする。
私の中で、インドを旅するうえでの一番の不安要素はレイプだったが、最終的にインドに3ヶ月弱いた中で受けたセクハラらしきセクハラはこの程度である。とはいえ、最低限の安全対策をした上でのことだが。
そして、ラジャスターン州に入って私には急激な変化があった。偶然が重なっただけかもしれないが、値切り交渉が上手くいくようになった。
特に上手くいったのは「宿泊費」の価格交渉。
"下調べの金額と違った"とか"ほかの宿も見たい"という理由で、すぐに泊ることを決めず一旦保留にするという定番パターンなのだが、オフシーズンということもあり宿側も必死でかなり下げてもらえた。
逆に失敗したのは、「ヘナタトゥー」の価格交渉。
無理矢理安くしたらダサい絵にされてしばらく消えなかった。さらに、アクセサリーを無理矢理つけられ「買え」と言われ、「外して」と言っても外してくれなかったので「じゃあ付けたまま帰る」というと渋々外してくれた。
インド人はメンタルが強い。故にインドを旅する中で自分もかなり強くなってきているのを感じた。2014年に中東で出会い、憧れていた彼女たちのように。
※2016年9月13日~30日 インド・ラジャスターン
「Over30女子バックパックでアジア周遊」