創作大賞2023【スターライト・ザ・ウサギ!】終章・イラストストーリー部門
※コチラの作品は創作大賞2023・イラストストーリー部門の投稿作です。
初見の方は以下のリンクで一章からお読みください。
―本編―
終章 夢の先へ
大波乱で終わったマーズシティ2255から、一週間が経った。
時間は深夜23:30。
誰もが仮想世界に耽る夜中に、日輪アルカの〝アルカチャンネル〟のスペシャル生放送の配信が始まった。
黄金の御髪を輝かせながら、豪奢な特設ルームの中央に用意された玉座に腰かける日輪アルカ。
スラリと長い美脚を組み、小悪魔の笑みでウインクする。
「みんなお待たせ。アルカチャンネルのスペシャル生放送にようこそ!」
『アルカこそお疲れー!』
『ニューアイドルセレクション四部門制覇オメ!』
『全部門制覇まであと一つだったのに!』
「はいそこ、傷を開かない。ちょっと本気でへこんだからさ」
ふっと遠い目をするアルカ。全部門制覇確実とされていた彼女だったが、惜しくも一部門だけ受賞を逃してしまった。
しかもアイドルとして絶対に獲りたかった歌唱部門でだ。
腸が煮えくり返る思いだが、獲れなかったものに何時までも執着するのはアルカらしくない。手に入らなかったら手に入らなかったで、縁がなかったものと思いサッパリ折り合いをつけて次に進んでいくのが彼女の強さだ。
「……まあ、夏と秋の音楽祭に出れなかったしね。仕方ないね」
『それもこれも全部サカプロのせい!』
『本当に腹立つ!!』
『ファイアフライも!! 協会追放じゃ足りない!!』
一斉に流れるサカプロ批判のコメント。
大会が終わると同時に、青春院社長は犠牲者一同を連れ立って記者会見を決行した。勿論、ファイアフライとの会話も公開した。
サカプロの脅迫が表沙汰になると過去に脅迫を受けたという事務所や個人経営のバーチャルアイドルも一斉に声を上げ、二十三世紀最大級の炎上騒ぎに発展した。
サカプロ内の有力なバーチャルアイドルも次々と告発を始め、独立や離反を表明する者で溢れ返った。業界の勢力図が一気に書き換わる様な怒涛の一週間だった。
しかしサカプロを裁いたところで、失ったものまでは戻ってこない。
瞳に哀しみを浮かべたアルカはそっと視線を下げる。
「本当に……犠牲になったアイドルのことを思うと、諸手を上げて祝杯とはいかないよね……」
『アルカ……』
「って、私たちが暗くなっても仕方がない! 今日のアルカチャンネルにはもう一人主役がいるよ! みんなも期待してるよね!?」
『勿論だ!!』
『今日の主役は彼女だろ!?』
『いやいや、二人揃って主役だよ!!』
「そう! 私たちは二人で一つのユニット! 今日からアルカチャンネルはスターライトチャンネルに変更します! それでは彼女を呼びましょう!! せーの!」
『 灰 兎 (仮)ーーーー!!!』
「なんでよーーー!!?」
ボワン! とファンシーな効果音と絶叫を上げて現れるオンボロ兎。
直前までこの姿で出演することを聞かされていなかった兎喜子は、コミックのような飛び出る涙を流してアルカに掴みかかる。
「なんで!? 私の魔法って解けたんじゃなかったの!?」
「いやいや、大会の時もニューアイドルセレクションの時も〝今夜限り〟って言ったじゃん。トーコが独力で人気を稼がないと魔法は解けないよ?」
『あ、この姿でもトーコはトーコなんだ』
『名前二つあるとややこしいもんな』
『頑張れトーコ! 魔法が解けるまで応援するぞ!!』
しくしくと涙を流しながら項垂れるトーコと、それを見てニヤニヤするアルカと視聴者たち。
……結局、月輪トーコの正体が晒される事態にはならなかった。
怒り心頭のサカプロはそのつもりだったらしいが、青春院社長による即日電撃記者会見がそれを阻止した形になった。
スターライトとファイアフライの会話を、個人名と写真を伏せた状態で一般公開し、大衆を煽ることで、世論を抑止力に使ったのだ。
もしも告発が一日でも遅れていれば、事務所と望月兎喜子の写真はネット上に晒されていたに違いない。時間との戦いに勝利したというところだろう。青春院社長の電撃作戦が見事に成功した成果だった。
しかし試合が終わったばかりの二人は……特に吉祥エリカの錯乱は激しかった。
ファイアフライに勝利した後、トーコを無理やりログアウトさせ、大粒の涙を流しながら詰め寄ったくらいだ。
「先生の馬鹿!! どうして勝っちゃうの!? 先生の人生が台無しになるかもしれないんだよ!? アイドル人生潰れるんだよ!?」
「だ、だって、エリカの夢がかかってたし……!」
「夢はいくらでも埋め合わせが効くでしょ!! でも先生の人生は取り返しがつかないじゃん!! 一生もんの借りを簡単に押し付けないでよ……!!」
エリカは滂沱の涙をこれでもかというくらい流し、嗚咽で顔をくしゃくしゃにしながら感情をぶつけるしかなかった。
本当に、兎喜子の人生が台無しになるかもしれない瀬戸際だったのだ。
自分が引きずりこんだ業界で兎喜子が不幸になるようなことがあれば、エリカは一生涯後悔し続けただろう。
本当はこの何倍も言ってやりたかったのだろうが、優勝した二人はすぐにインタビューと表彰式に戻らねばならなかった。
荒々しく兎喜子の控室を後にしたエリカは、去り際にこんな脅迫を残していった。
「言っとくけど!! 先生のリアルがバレたら、アルカのリアルもバラすからな!! そんで二人でリアルバレアイドルとして再デビューだ!! ちんくしゃ女とアラサー金髪女の二人で天下取るまでやるからな!! 覚悟しときなよ!!」
「お、おんぎゃわぁ……!!」
恐ろしい提案だ。ラビットハートの兎喜子は震えるしかない。
しかし本当に恐ろしいのは、滂沱の涙でぐしゃぐしゃになっておきながら、数分後のインタビューでは何時もの笑顔でアルカを演じきったエリカだろう。ファンの前では絶対にジェネラリストアイドル像を崩さないという彼女のプライドが成せる業だった。
「うう……やっとこのオンボロ兎から卒業したと思ったのに……」
「まあ、今日はトーコと私の初シングル配信日だしね。少しくらいお色直ししてもいいか」
パチン! とアルカが指を鳴らす。するとトーコの身体が光に包まれ、艶やかな黒髪の兎へと変身した。
それと同時に、コメント欄にどよめきが起こる。
『え……アルカが魔法を解いたぞ……!?』
『悪い魔法使いってそういう……!?』
「え~なんのことかわからないな~? その辺の設定は今後に期待ってことで♪」
小悪魔の笑みを浮かべながらはぐらかすアルカ。親友設定はどこに行ったのだと、トーコも思わず震えてしまった。
「さて……あと5分で配信開始だけどさ。トーコの感想は?」
「え?」
「夢だったんでしょ? みんなに歌を聞いてもらうの」
先ほどとは打って変わり、優しい微笑みで語り掛けるアルカ。
トーコは紅潮して視線を下げて黙り込む。胸の高鳴りは大会の時とは違う不思議な高揚感で満ちていた。
七年間……何時か何時かと想いながら、現実から遠ざけていた夢。
その夢があと5分で叶う。
日本中に日輪アルカと月輪トーコの歌が流れて、沢山の人に聞いてもらえる。嬉しさと恥ずかしさで紅潮してしまうのも仕方がない。
「ふふ……嬉し恥ずかし、って顔だね」
「う、うん」
「じゃあ今度は私の夢に付き合ってもらおうかな。今思うと、ちゃんと返事を貰ってなかったし」
疑問符を浮かべるトーコ。アルカの夢はニューアイドルセレクションで結果を出すことだと思っていた。
その夢は見事に果たせた……はず。
四部門制覇で満足できないという意味ならば未達成と言えなくもないが、過去を何時までも引きずるアルカではないだろう。
何のことかわからず首を傾げていると、アルカは微笑みながらトーコに手を伸ばす。
「トーコ。
私と一緒に……バーチャルアイドルで、天下を取らない?」
それは、全ての始まり。
放課後の学校で向かい合った二人――吉祥エリカと望月兎喜子の契約。
あの時は頭が真っ白になってまともに応えられなかった。今日までの日々は余りにも激しい勢いで、思い出している暇がなかった。
ああ、そうなのだ。
ニューアイドルセレクションは、日輪アルカにとって通過点でしかなかった。時代を最も強く照らす太陽の子の戦いは、これから始まるのだ。
あの日の兎喜子は恐れ多くてとても頷けなかった。
しかし今なら、胸を張って笑顔で言える。
「はい! よろこんで!」
「よし! もう逃がさないからね! トップアイドルまで一直線だ!」
「ええ! スターライトのニューシングル〝Shooting Star〟の配信まで、あと5秒! 4秒!!」
『3!!』
「2!!」
「1!!」
『「配信――start!!」』
スターライト・ザ・ウサギ 完
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