見えないのか/聞こえないのか(R-18指定)
見えないのか
眼の前で家が燃えている
見えないのか
眼の前で家が燃えている
あの家には40歳の母親と14歳の娘が住んでいた
40歳の父親は戦争へ行ったきり行方不明
敵の軍人たちは
ヒゲをたくわえた男たちは
狩りをしにきたのだ
母親と娘を自動小銃で小突いて(こづいて)
トラックの荷台に乗せると
家に火をつけた
彼女たちの帰る場所を奪った(うばった)のだ
燃えている家は
母親と娘の家であるが
あなたの家でもある
あなたの家が燃えているのだ
母親と娘は性奴隷(せいどれい)になった
朝も昼も夜もレイプされた
彼女たちは性器を突っ込む(つっこむ)「穴」だった
14歳の娘の精神は、簡単に破壊された。
まだ男とちゃんとした恋愛もしていないのに、いきなりだ。
1日に50人、100人との
めちゃくちゃなセックス
頭がおかしくなるのも当然である。
1年後、解放されたけれど
哀れだと(あわれだと)思われたわけではない
母親も娘も腹が大きくなっていた
臨月(りんげつ)だった
戦場に赤ん坊はいらないのだ
幼い顔の妊婦
子供が子供を生むのだ
暴力の果てに生まれる新しいいのち
そこに愛が注がれるかどうかわからない
聞こえないのか
集中治療室に音が満ちている
聞こえないのか
人工呼吸器の音
心電図モニターの音
これらは人工的な音だ
人間から出る音ではない
自発呼吸はしていない
機械が呼吸をしている
それでも、手を握ればぬくもりがある。
今、いのちはどこにあるの?
機械に支配されたら
もう人間ではないのか?
そんなことはない
私は知っている。
はっきりとした意識で
機械を支配すれば
いのちは機械と融合して輝く。
車椅子と一体となって
躍動する(やくどう)するテニスプレイヤー
電動車椅子サッカーの歓喜!
義足のランナーは大地を駆け抜ける
走る走る
あそこに地雷が埋まっていた
走る走る
朽ちた(くちた)戦車が見える
走る走る
お花畑だ
走る走る
花なんかでは、おなかがいっぱいにはならないよ。
今、赤ん坊を抱いている
発狂した少女よ
あなたはもう燃える家を見なくていい
男なんか見なくていい
あなたはもうこれ以上
壊れる必要はないのだから
赤ん坊は大きくなる
あなたは消えてゆく
朝日はやがて夕日になる