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グッドモーニング・ルーティーン

  連日夜遊びなんて結局わたしには向いてなくって、早寝早起きして朝ごはん食べるのがいちばんバランスいいみたい。友達と朝まで飲み歩くのだってそうしてる間はそりゃ楽しいけど、明るくなってから感じるお酒でガラガラになっちゃった喉とか、シャワーを浴びてないベタベタした体とか、メイクが落ちてむくみまくりの自分の顔なんかを見るとげんなりしちゃう。はあ、早いとこ切り上げとけばよかった!そのくりかえし。
 わたしが思うにいい朝(グッドモーニングっていい挨拶だよね、ほんとに!)っていうのは前の日の晩から始まっている。3時に寝て7時に気持ちよく目覚めれるわけがないでしょ。ゆっくりお風呂に入って、ゆっくり寝る準備して早めにベッドに入ってホットティーを飲んで‥そういう時間的・精神的余裕がないと次の日を「いい朝」にすることなんてできない。 
 そしたらとりあえずいい朝の事前準備はオッケー。そしたら次は早く起きることからスタート、家を出る3時間前には起きてたいところ!早起きして、のんびり顔を洗ってその日の気分にぴったりの音楽をかける。それはそれぞれお好みで。
 わたしだったら例えば大好きなアルバム「イエロー・マジック・オーケストラ US版」なんかをかける。パソコンでSpotifyを起動して、かっこいいジャケットをでかでかと表示させて再生をクリックしたら、気分はもうオリエンタル!小さな駅の集合住宅の小さな一部屋には砂漠からやってきた風が吹いて、黄海の香りがして、そうしてこの極東の島の空気と混ざり合う。気分が乗ってきたら、そのまま服を選んでメイクもしちゃう。たとえそんなに予定のない日でも、知った人に会わない日でも、外に出るんだったらお気に入りの服を着て、ばっちりメイクしたいなっていうのがわたしの嗜好。自分の一番好きな自分で、過去最高を常に更新しながら生きてたいもんね。
 音楽はわたしにとってすごく重要な気分設定装置。どんな音楽をかけるかで、わたしのその日のムードも決まってしまう。毎日ジーンズじゃ飽きちゃうでしょ?たまにはワンピースだって着たくなるでしょ?好きなものってたくさんあっていい、音楽も映画も本もなんでも、たくさんお気に入りがあっていいの、ひとつの系統なんか決めなくたっていいってわたしは思う。毎日いろんな気分を旅しようよ。
 今日はオリエンタルな気分だけどなんとなくカジュアルにしたいから、クロップド丈のシンプルな白いTシャツにブルーのジーンズを合わせる。サンダルで足元は涼しげにして、でもそれだけだとちょっと寂しいから、鮮やかな色のペディキュアを塗る。首にはオリエントを感じさせるきれいな柄のスカーフを合わせよう、おばあちゃんの家から盗んできたやつ!すっきりさせたいから前髪は横に流してピンでとめちゃう。いちばんお気に入りの曲、「Tong Poo」を聴きながらのんびりメイクする。いつもは垂らすアイラインをちょっと跳ね上げ気味にしてみたりする。まぶたにいつもより多めのラメをのせたら、わたしだけのオリエンタル・ムードが完成する。今日もいちばん大好きなわたしになれた。
 朝ごはんはちょっとおしゃれにトーストを焼いてみる。その間にサラダとヨーグルトを準備して、奮発するときはフルーツまで用意しちゃったりする豪華版のときもある。その間にお湯を沸かして、アールグレイのティーパックをカップに落としておく。トーストが焼けたらお好みでジャムを塗って、余裕があればその隣にスクランブルエッグを添えたりして、準備したもの全部おぼんに載せたらわたしだけのモーニングプレートの完成。慎重に机まで運んで座ったらお気に入りの本なんかを開いてゆっくり朝食を楽しむ。ジャズなんて流したらもっと最高かも!
 そのまま二杯目の紅茶を飲んで家を出る時間までゆっくりしてるのもいいし、余裕があったらちゃんとお皿を洗ってお部屋を掃除するのもいいし、早めに学校に行って図書館で本を借りるのもいい。こんないい朝から始まる1日が悪いものになるわけがないし、(仮にその後悪いことが起こったとしても、とりあえず朝は素敵だったなって自分を慰められるでしょ!)早く起きたら大体夜はぐっすり寝られる。「早起きは三文の得」って、わたしが信じてることわざのひとつ。
 この前読んだ『暇と退屈の倫理学』に、革命後の世界を案じたウィリアム・モリスは生活を飾ることこそ重要だと主張したって書いてあったの、なんだかその通りだなって思った。ずっと大義だけを抱えて生きていくことはできないでしょ?わたしは今のこんなふうな社会が嫌いだし狂ってるって思うしどちらかというと人嫌いだけど、そんなふうにずっとむすっとして、崇高な理念だけを掲げて生きていくわけにはいかないじゃん。世界がどうしようもなくても自分が無力でも、わたしは明日何時に自分が起きるか決めることができるし、朝食になにを食べるか、どんな音楽をかけるかを自由に選ぶことができる。生活はわたしの手に委ねられているんだから、せめてそれだけははすてきに飾りたい。わたしだけは自分の好きなわたしでいて、移り変わる気分の中を自由に旅したい。「自分の機嫌は自分でとる」なんて、陳腐で使い古された言葉にまとめちゃうのはちょっと残念な気がするけど、そうして自分が変えられることを、自分で選べることを全部わたしのお気に入りに変えていけば、ちょっとは悲観的気分もましになる。心に余裕が生まれて、ちょっとは人のことを好きになれそうな予感がしてくるの。この世界まるごと愛さなくてもいいから、せめて自分だけは愛していようよって、今はそんなハッピームード。
 


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