howmilesaway 9
暑い。風が全く吹いていなかった。ハナと私は小さなローラコースターの前に立って、辺りを見回していた。今日はカーニヴァルの二日目で、昨日の夜に盛大なパレードがあったからこの街のほとんどの人がまだ家で寝ているんだろう。カーニヴァルの人気は少なくて、一応アトラクションが動いたり屋台なんかが出ていたりするけど、カーニヴァルの人たちもあんまりやる気がない。初日が終わっちゃえば本番は三日目から、って考えてるみたい。
「ほんっとにガラガラだね、試しに来てみたけど。これじゃああんまり楽しくないや」
ハナはつまらなそうな表情をして言った。私もその意見に同意だった。みんなが寝ている二日目にカーニヴァルに行けば空いているから快適だろう、と思ってハナと来てみたけど、実際はそうでもなかった。カーニヴァルに必要なのはあの人混みで、活気みたいなものだった。活気のないカーニヴァルはなんだかどうってことないもののように見えて、全然魅力的じゃなかった。
私たちはお腹が空いていたからとりあえず何か食べようってことになって、おじさんが暇そうに立っているお店でホットドッグとポテトフライ、それにコーラとアイスティーを買った。ハナはチーズのホットドッグにポテトフライ、アイスティーのセットで、私は普通のホットドッグにポテトフライ、コーラのセット。申し訳程度のファンがくるくる回っているテラス席で、私たちは買ったものを食べることにした。そこは日陰だったけど如何せん風が全然吹いてなかったしファンが送り込む空気も生ぬるくてほんとに申し訳程度って感じだったから、私たちは暑い暑いって文句を言いながらホットドッグを頬張った。コーラを飲めば、ちょっとはこの暑さもましになる。ポテトをつまんでいると、くるくるした茶色の長い髪を後ろに流している少年がこっちにやって来た。
「君たち暇?何歳ぐらいなの?」
ハナは彼の方をちらっと見たけど、興味なさげに視線を逸らした。
「十七!ナンパ?それとも客引き?」
「俺と一緒だ!どっちもだよ。あっちでめちゃくちゃ面白い企画やってるから来てよ。面白いやつらもいるし、酒もある。君らなら何杯飲んでくれたっていいよ」
それから私の方を見て、
「もちろんコーラもね!」
と言って笑った。
私とハナは顔を見合わせて考えた。
「だって。ねえリリーどうする?暇だし行く?」
「それもありかもね。ねえ、そこって建物の中?涼しいの?」
私は聞いた。
「そりゃ涼しいよ!プレハブの中でやってるからね、空調完備だよ。こんなとこにいるより絶対いいね」
私はちょっと笑った。声をかけてくる男の子たちって、都合のいい完璧なことしか言わないから面白い。ハナといるとよく男の子が声をかけてくるけど、みんなこんな感じだ。
「じゃあ行ってみよっか。どこらへんにあるの?これ食べたら行くわ」
ハナが言うと、彼はとても嬉しそうな顔をしてガッツポーズした。私たちと同じ歳にしては無邪気だ。
「あそこのアイス屋の角を曲がったところ。ねえ、折角だから案内しようか。俺、君らが食べ終わるまで待ってるよ、なんか喋ろうよ」
ハナは目をぐるんと回した、呆れた時にする表情。
「あんたとのおしゃべりなんて退屈確定だからお断り!先に行ってドリンクでも冷やしてて!」
この挑発的な態度も、ハナを魅力的に見せるワンファクター。本人もそれを重々承知だ。
「わかったよ。じゃあ先に行って待ってるさ」
少年はとぼとぼと、元来た道を戻って行った。
「顔は悪くないけどガキくさい、ほんとに十七?」
ハナは訝しげに言った。
「ね。年上の仲間にこき使われてるのかな」
「そうかもね、いい男がいるといいけど。展示って言ってたけど、一体何やってんのかしら」
「何も言ってなかったから全然わかんないけど、なんかやらしいのだったらすぐ逃げよ」
「そうね」
相変わらず暑い。
仲間にも展示にも大して期待してない私たちは、ゆっくりとポテトフライを食べた。
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