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howmilesaway 4

カーニヴァルを生み出した男は、カーニヴァルが莫大な経済効果を生み出すことに気がつくと、なんとかその効果を増幅させることができないかと考えた。そして彼はカーニヴァルを「移動式」にしてしまった。

今やカーニヴァルを求めて国中から人がやってくる。しかし旅行というのは金がかかる。中にはカーニヴァルに行きたくても行くことができない遠方の人たちもいる。そういう人たちがカーニヴァルに来て金を落とすようにするには、こちらが移動して彼らの元に行くのが最適である。

この街は辺鄙だ。カーニヴァルは大きなひとつの建物というわけではない。即席の建築物の寄せ集めのようなものなのだから、人手さえあれば別にどこでだってできる。こんな街でずっと商売をしていては、いつか人々は飽きて遠くから訪れる客はいなくなるだろう。

そう考えた彼は、国中を巡ってカーニヴァルを開くことにした。至るところでカーニヴァルの開催は歓迎された。カーニヴァルは街を賑やかにする。人の出入りを激しくして、経済を豊かにする。街をまわった方が利益が出ることを実感した彼は、もう二度とこの街に戻ってくることはなかった。こうしてカーニヴァルは移動式のものになった。

 それから、街はまた静かになった。あんなに多かった観光客は一気に姿を消した。カーニヴァルとともに、労働力だったたくさんの若者たちも旅に出てしまった。楽園と子どもたちをなくしたこの街は寂しくなった。カーニヴァルは束の間の幸福だったのだ。

 それから三十年、この街はガイドブックの隅っこに「カーニヴァル発祥の地」と寂しく名を乗せるだけのものになってしまった。そしてこの街のひとりの男が考え出した「カーニヴァル」はやがて増幅した。カーニヴァルの人気ぶりを見た人々によって、たくさんのカーニヴァルが生み出されたのだ。そうしてそのたくさんのカーニヴァルが国中を周り、時折この街にもやってくるようになった。人々は街を捨てた男を恨んでいたけれど、カーニヴァルというのはやっぱり楽しいもので、そして豊かだった「あの頃」を思い出させてくれるものだったから、結局カーニヴァルがやってくるたびにその亜種的なカーニヴァルに夢中になった。そして子どもがアトラクションに興じるのをビール片手に眺めながら、「懐かしいなあ。あの頃が戻ってこないかなあ」としみじみと思うのだった。


 ぬるい温度の湯船に浸かる。この街の議会委員であるママは、この街がまた豊かになることに躍起になっている。「みんなこの街が好き」「誰もここを出て行かない」なんてママは言うけど、そんなのママが信じてる都合のいい嘘だ。メアリーもルークも、この街の半分ぐらいの若者がどこか遠くへ行ってしまった。夢見る若い肉体を持って、何もないこの小さな街にいるのはとても苦痛なことだと思う。

 小さい頃からママに言われてきた。「あなたはいずれ議会委員になるのよ、そのためにお勉強するのよ、そうしてこの街のために頑張るのよ」って。それが私に示された道だった。私が進むべき道で、私はその道を目指して生きていたつもりだった。でも、勉強をすればするほど、図書館の本を読めば読むほど、私は外の世界に焦がれていった。一度もこの街を出たことがない私には、外の世界は本に書かれている情報でしかなくて、あとは私の想像力で補うしかないものだった。でもそれでも、私にとって外の世界はすごく輝いて見えて、いろんなところに実際に自分の足で行けたらどれだけ幸せだろうって思った。そして外を考えれば考えるほど、何もないこの街が、正直未来なんてない小さなこの街に一生自分がいなきゃいけないってことがとてつもなく恐ろしく思えた。とにかく、ここじゃないどこかに行きたかった。行ったことがない場所へ、未知の場所へ行ってみたかった。私は自由になりたい。

 私は湯船から出て、大きなタオルで体を拭いた。いつも通りクリームを体に塗ろうとしたけど、洗濯機の上にいつも置いているはずのクリームがない。ああ最悪、二階の自分の部屋に置きっぱなしにしてたんだった、取りに行かなきゃ。クリームを塗らなきゃ服も着れない。そう思って私は、とりあえずバスタオルを体にぐるぐる巻いてドアを開けた。

 キッチンテーブルには相変わらずママがいて、私の気配を感じると口を開いた。

「リリー、あなた話してる際中なのに急にいなくなるから、どこに行ったのかと思ったわよ。‥まあ、なあにその格好!ちゃんと服を着てきなさい」

ママはまだ新聞と睨めっこしている。私は言い返した。

「クリームを部屋に忘れちゃったの。まずあれを塗らなきゃ」

そう言ってママに背を向けると、ママの「まあ」と驚いたような声が聞こえてきた。

「あなたそれ、全然良くなってないわね。触ったり、掻いたりしてるんじゃない?」

心臓がどくん、と鳴る。これだからクリームを取りに行くのが憂鬱だったんだ。

「そう?そんなことしてないけど。そんなにひどい?」

ああ、本当に嫌な気持ちになる。普段は隠していても、やっぱりそんなにひどいんだって、気になるんだって気にしてしまう。

「ええ、なんだか赤黒くて、とっても痒そう。クリームは塗ってるんでしょう?」

私のせいじゃない、これは私のせいじゃない。どうしようもならないことだから。でもママはとにかく理由を欲しがって、対策を講じたがるから、単純に私を原因にしようとする。

 そんなママに苛立った私は強い口調で言った。

「塗ってるよ、だからわざわざ取りに行くんでしょ!」

ママはそれ以上何も言わなかった、私も黙って階段を登った。


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