パワハラ防止法について学ぼう。
今日は、2020年6月から改正が施行された労働施策総合推進法(パワハラ防止法)について、学ぼう。
1.パワハラ防止法とは
パワハラ防止法は、法律全体を指すものではなく、労働施策総合推進法第30条の2以下で定められた
「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置」
に関する規定のこと。
もともとこの規定は、2019年6月5日に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」として公布されていたものであり、これがこの度、2020年6月1日に施行されたものである。
公布時の厚労省資料はこちら。
2.パワハラ防止法の概括
労働施策総合推進法30条の2以下を見ていこう。
該当箇所自体は、30条の2~30条の8までの、全7条と、案外少ない。
ただ、条文自体は少ないものの、運用指針が出されており、その指針が重要。
この7条の枠組みは、大枠として「事業主(一部、国)の責任」と「紛争解決」の2つに分かれている。
改正に伴う対応としては、前者の方が重要。
3.「パワハラに対する事業主の責任」の条文
キーワードは、「パワハラ防止措置義務」と「パワハラ相談の解雇制限」
(雇用管理上の措置等)
第三十条の二
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
事業主は、パワハラを防止するために、労働者の相談に応じて適切に対応するための体制整備をしなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
労働者がパワハラについて相談をしたこと、パワハラの事実調査等、相談に対する事業主の対応にあたり事実を述べたことを理由とした解雇の制限。
3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。
この規定で、事業主が講ずべき措置について、指針に詳細が定められることになる。
4.パワハラ防止に関する指針の要点
指針の詳細はこちら。以下では、要点のみサマライズする。
(1)パワハラとは
以下の要件を全て満たすものを、パワハラという。
職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの
①の「優越的な関係を背景とした言動」については、「同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの」もあたるとされている。
上司が部下をいじめるパターンだけでなく、部下が徒党を組んで上司をいじめるパターン(部下が集団で上司を無視したりするようなケース)も、①の優越関係に該当する点、要注意。
②の「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」については、指導との線引きが難しい。
指針でも総合考慮とされているが、最終的な判断としては、問題行動の程度、それに対する指導の態様、労働者のストレス耐性等々を考慮して判断せざるを得ない。
裏を返せば、それだけ企業としても慎重な対応を取らざるを得くなるということ。
頭ごなしに叱るのではなく、起きた事象に対して、何が原因で起きたのかを一緒に深堀り、再発防止策を一緒に考える、みたいな、寄り添い方のマネジメントが必要になるのかな(言うは易し、行うは難し。。)
詰め系のコミュニケーションも、メンタルえぐりかねないので、過度な詰めは避けるべし。
指導側は、結構しんどくなるのかなぁ、とは思いつつも、一般的な規範として示されているのは、「社会通念に照らし、当該言動が明らかに業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指す」ということなので、不必要に声を荒げたり、不必要に詰めなければ、必要な指導の範囲として認められるだろうとは思う。
もちろん、記録化しておくことも忘れずに。
③の就労環境の悪化については、判断基準としては一般人基準とのこと。
同じ状況下で、同じように指導されたら一般人としてはどう思うか、という点から判断するよう(その個人にとっては、「就労環境が悪化した」わけだから、判断基準としては一般人基準になるのは相当)。
指針では具体例が詳細に上がっているので、ここは要チェック。
(2)会社が講じるべき「必要な措置」とは
概要、主に以下の4つ。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発。
②相談に対して適切に対応するために必要な体制の整備
③パワハラが起きた場合の迅速かつ適切な対応。
④その他、①~③の周辺領域で必要なこと。
①の「事業主の方針等の明確化とその周知」としては、
・就業規則等での禁止事項・懲戒事由として、パワハラを明記。
・社内報や、社内説明会、研修などで、パワハラ禁止を啓蒙。
・パワハラを行った者に対しては厳正に処分する旨の啓蒙
といったあたりが挙げられている。
社内説明会や研修については、個人的には、ジュニア層への啓蒙も必要だと思う。このパワハラ防止法が濫用されないようにしていきたい。
②の「相談に対応するための必要な体制整備」については、主に通報窓口の設定と相談を受けた際のフローの構築。
大きい組織だと、コンプライアンス部などが対応することになると思われるが、社内のリソースに限りがある場合には、外部の弁護士などを窓口として設置してもいいと思う。
あとは、相談時は相手方に配慮した話し方をしましょう、というところ。
③の「発生時の迅速な対応」については、基本的には、
事実確認→受けた側に対する対応の検討→した側に対する対応の検討
という三段階。
受けた側に対する対応としては、引き離すための配転や、行為者の謝罪、メンタルヘルスに対する対応についての検討。
した側に対する対応としては、懲戒の検討、引き離すための配転、謝罪についての検討。
事実確認が難しい場合には、中立な第三者機関への調停申立などを利用するとよい、とのこと(30条の6に基づく調停)。
④は、主に相談者のプライバシーに配慮すべし、というところ。
相談内容は、場合によっては、病歴や、性自認、性的志向などの過度なプライベートにも及ぶ可能性があることから、相談者のプライバシーが保護されるように制度を設計する必要がある。
また、雇用との関係で不利益な取り扱いをしてはならないので、その旨もちゃんと啓蒙すべし。
5.雑感
パワハラは大きな社会問題の一つであり、これを防止するための施策を講じる義務を課した今回の法改正は非常に有意義なものだと思う一方で、指導に対して委縮効果が働いてしまうのではないかという点も懸念される。
指導する上司側において、部下の成果を高める目的での指導を意識する、というのはもちろんのこと、指導される部下側も、指導は指導としてきちんと受け止めるべきことは啓蒙していく必要があるだろうなと思う。
この法律は、要するに、上司も部下も、お互いに個としてリスペクトしあいましょうね、という話なわけで、上司も部下も、お互いに、成果に向かって協走できる関係を築くための一助になるんじゃないかなと期待をしているところです。